自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
「ロングレンジドライブを可能にする究極の人馬一体」
これがマツダ デミオのコンセプトとなっています。
これまでもデミオには何度となく乗ってきましたが、2017年4月に全車種【i-アクティブセンス】を搭載させてからは、これが初めての触れ合いになります。
1,300ccガソリン車と1,500ccディーゼル車のラインナップという、日本では異色のコンパクトカーを用意していますが、エコという分野にどれほどの追求をしているのかを注意深く見ていきたいと思います。
1,300cc 5速マニュアルという設定があることから、私はプジョー 106 ラリーをイメージしました。 私が初めて自己所有した自動車です。
とてもワクワクしています。
1,500ccディーゼルターボ 6速マニュアルの設定も魅力的です。
どちらも欧州車スタイルの走りをみせてくれることを期待します。
マツダ デミオに対する私の評価は7.6/10点満点です。
決して期待外れではなかったのですが、私の感じた率直な評価をご覧ください。
1.グレードによる外観の違い
近年のマツダ車は、外観のディテールが日本車的ではなくなってきています。
今回デミオをじっくり見た結果、アウディ A1と重なりました。 リアフェイスが寂しいという声もあるようですが、アルファロメオ 147などと同レベルではないでしょうか。
確かに、近年日本車のリアフェイスは個性的なものが多いですが、その流れに乗る必要は全く無いと考えます。
デミオを見た瞬間に感じたのは、塗装が重く密度が高いということです。
匠塗りというらしく、深く吸い込まれていきそうな色の深みを感じられます。
グレードとしては、13C、13S、XDの大きく3タイプ用意されていて、パッケージを追加することで装備品の充実をさせるという方法をとっています。
パッケージを度外視した場合、メインとなる3グレードの外観的な違いは基本的にはありませんでした。
ディーゼルグレードであるXDには、フロントグリルとガーニッシュに特徴をもたせていて、ボディー同色ではなく上部をピアノブラックで塗装されたフロントグリルと、レッド系メタリック塗装されたガーニッシュがオシャレです。
マフラーカッターが装着されているのもXDの特徴です。
15インチスチールホイールを標準としたガソリン車と、15インチアルミホイールを標準としたディーゼル車という点で、XDへの力の入れ方がうかがえます。
一見守りに入っているのかとも思えるほどシンプルなデザインですが、不思議と愛らしさを感じるので良しとしておきましょう。
2.グレードによる内装の違い
まずは気になったポイントからご紹介します。
ヘッドアップディスプレイが見づらいです。 角度の変更は容易にできましたが、下手をすると折れます。
手動ではありません。
間違いなくナビで操作することを忘れないでください。
マツダらしさを感じられるオルガンペダルは健在です。 アクセルペダルの方式ですが、吊り下げられたアクセルペダルよりもストレスが少ないです。
ただ、吊り下げペダルに慣れていると若干違和感があるかもしれません。
内装ではありませんが、リヤシートへのアプローチが悪いです。 人を乗せるというより荷物を乗せるという印象を受けました。
開口部が狭いようで、乗り降りともに頭をぶつけました。
13C、13Sのシフトレバー手前にあるスイッチが気になります。 何やらSPORTと書いてあります。
…楽しさしか感じられないのは気のせいでしょうか。
さて、全グレード共通のエアコン吹き出し口ですが、一見ツイーターのようなオシャレさがあります。
13Cは廉価グレードとなっていますが、グレー単色やマットブラック単色の内装というわけではなく、ブラックとシルバーで廉価グレードとは思えない仕上がりです。
13Sはガソリン車の標準グレードという立ち位置です。
基本的に変化はあまりありませんが、13Cとの差は大きいです。
素材などの質感はもちろんのこと、一番の違いは分割可倒式リヤシートでしょう。 13Cではメーカーオプションですが、13Sは標準装備です。
とりあえず同乗者に優しい設定になっています。
メーカーオプションのレインセンサーワイパーは賛否両論ありそうです。
XDは13Sとほぼ同様な仕様でした。
全グレードを通して、どれを選んでも不満が生まれるような仕上がりでは無いことに驚きです。
3.グレードによる走りの特徴
今回は、あえてマニュアルとオートマチックで乗り分けて2日間試乗してきました。
グレードは13SとXD、XDツーリングの3グレード4台です。
まずはオートマチック13Sです。
デミオのトランスミッションですが、無段変速機ではなく6速オートマチックトランスミッションを搭載しています。
有段変速の場合、特性としてローギヤードなのかハイギヤードなのかに寄せて作られるか、その中間をとった無難な仕様にするかに分けられます。
デミオの場合、中間をとった仕様になっていました。
1,300ccという小排気量に対し、ローギヤードに振らないトランスミッションはミスマッチです。
実際、走り出しのトルク不足が感じられたのは残念です。
本来であれば、キビキビと小刻みな機動性が求められるタイプの自動車なのですが、少しアクセルを踏み込まなければパワーを感じません。
0〜20km/hまでのトルクの谷がやや深めですが、30km/hからの巡行性能には問題がありませんでした。
むしろ、30〜60km/hの間はしっかりとトルクのオイシイ部分で走り続けることができる設定です。
ブレーキ性能は申し分なく、サスペンションもしっかりと仕事をしてくれます。
横Gに対しても、運転する上ではほぼ気にならないほどの足回りです。
しかし、後部座席への影響は意外にも大きかったことを考えると、重心はややフロント寄りに位置しているのだと考えられます。
惰性でコーナーリングをしていきやすい自動車ではありません。 アクセルオフよりも、踏み込んで曲げていくという感覚が強いです。
この辺りは欧州車に近いフィーリングでした。
高速道路での走行には安定性がありました。 空力的に有利なのでしょう。
横風やトラックからの影響にもハンドルを取られる心配はありませんでした。
ただ、パワー不足が否めません。
1,300ccという非力なエンジンですので、車内にはエンジンノイズが響いていました。
物は試しとSPORTスイッチをオンにしてみると、いきなりエンジン回転が上がり2,000rpmも上昇。
3,000rpmで巡行していたところ、5,000rpmまで跳ね上がりました。
最大トルクは4,000rpm 最大出力は6,000rpmで発揮されるエンジンですので、一気に加速し始めます。
さっきまでのボヤけたエンジンが、いきなりじゃじゃ馬に変貌しました。
かといって、手に負えないようなパワーが押し寄せるわけではなく、どこまでいっても92PSのエンジンです。 燃費を犠牲にして得られる一時的な加速装置とでも表現しておきます。
継続的なパワーを求めるには、エンジンへの負担が大きそうです。
次にXDです。
13Sを走らせた後なので、余計に今回のデミオがディーゼル主体で作られた自動車だということを感じました。
ガソリンエンジンであれば、1,500cc 6速オートマチックトランスミッションでも非力さを感じると思います。
しかし、XDはディーゼルエンジンです。 1,500〜2,500rpmで最大トルクを発揮してくれます。
想像通りの力強い走り出しに、低回転時から機能するタービンはストレスを感じませんでした。
13Sと同様に踏み込んで曲がっていく特性から、基本的な装備に変化はつけていない同じ様な設定なのだと感じました。
ブレーキ性能は、若干キャパオーバーなのかと感じたのは高速走行時です。
気にするほどではないのですが、トルクに引っ張られてしまう様な印象を持ちました。
1,300ccと1,500ccを同じ仕様で賄うには、デミオは若干無理があるようです。
コンパクトカーにディーゼルエンジンは意外にアリです。
まだまだ詰めていける部分はありますが、ガソリン価格高騰の現代であれば、ディーゼルエンジンに力を入れていくのは立派なエコだといえるでしょう。
ディーゼルエンジンの排気が汚い理由は、軽油自体の質が悪いからであって、決してディーゼルエンジンだから汚いわけではないのです。
そうでなければ、欧州車の主流がディーゼルエンジンになるわけがないのですから。
しかし、正直なところ乗り味でいえば13Sの方が素直だというのが本音です。
更に13S 5速マニュアルに乗ってみました。
結果から申し上げます。
期待外れでした…
良くも悪くも日本車然としていて、前へ前へというフィーリングは感じられませんでした。
マニュアル車に乗っているというステータスを満たすことはできても、欧州車のようなフィーリングを求めることはできません。
やはりXDが主体なのでしょう。
最後にXDツーリングを試しました。
1,500cc ディーゼルターボ 5速マニュアルという期待を胸にいましたが、13Sが残念な結果だったため若干気落ちしていました。
走り出しにトルクの谷が生まれるのは覚悟していましたが、ここは案の定といったところです。
しかし、30km/h 2,000rpmを超えたところからそれはやってきました。
ドカンっと気後れするような加速感と、小気味よく回るタービン音が、私にある自動車をフラッシュバックさせたのです。
FD3S RX-7
奇しくもマツダの名車 RX-7を彷彿させたのが、なんとディーゼルエンジン搭載のデミオです。
踏めばどこまでも回ろうとするエンジン、パワーをかけていないと曲がりたがらないシャシー、確かに重なる部分はありました。
しかし、明らかに違う絶対的パワー感のなさは、排気量の差ですので目を瞑りたいと思います。
13Sからの乗り換えというのもあったのでしょう。
しかし、確かに運転することが楽しくなったのは事実です。
4.まとめ マツダ デミオはディーゼルエンジンが無難
乗りやすさで考えれば、ガソリンエンジンの方が確かに素直で良いのです。
しかし、正直アクセル踏みます。
1,300ccの割にローギヤードではないトランスミッションの設定は、やはり根本的に無理があるのです。
SPORTスイッチオフの状態でボヤけたフィーリングのまま20km/Lそこそこの燃費性能を誇っていたとしても、実際かなりストレスを感じていました。
SPORTスイッチオンにしたところで、確かに走りやすさは良くなるのですが燃費は最悪。
オススメはまずしません。
逆に、ディーゼルエンジンを搭載したXDは、パワー感トルク感ともに及第点といって良いでしょう。
低回転時から機能するタービンの後押しもあり、街中を軽快に走り抜けるのは間違いなくこちらです。
燃費性能も25km/L前後という不満の残らない結果を出してくれていますし、何より軽油ですからコストが安い。
ガソリンと比較しても20円/L程度の差があります。
44Lタンクで900円程度の差額が発生するというのは大きいです。
確かに日本の軽油はまだまだエコではありません。
電気自動車やハイブリッド車に比べればエコとは程遠いと感じるのも当たり前です。
しかし、今後国が軽油への着手を踏み切ってくれたとするならば、マツダ デミオは超優秀で立派なエコカーとなるでしょう。
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