9月上旬、ドイツ フランクフルト郊外に位置するマツダ・モーター・ヨーロッパにてお披露目となったSKY ACTIVE-X新型エンジンが話題となっています。
SPCCI=火花点火制御圧縮着火
…なんだかよくわかりません。
基本形態はピストンの往復によりエネルギーを生み出すレシプロエンジンを採用していますが、圧縮圧力による混合気の自然発火を利用したリーンバーンエンジンが実態となります。
これは、ディーゼルエンジンの着火方法と同じで、少し前までガソリンエンジンではその裏に存在する危険性を考慮して踏み止まってきたエンジンになります。
2007年にドイツ ダイムラーがHCCI(予混合圧縮着火)方式という類似した着火方式のガソリンエンジンを試験採用していますが、未だ量産には至っておりません。
ハイブリッド自動車や電気自動車の進化開発に各社が躍起になっている今、わざわざガソリンエンジンを進化させることにどのようなメリットがあるのでしょうか。
1.リーンバーンエンジンの危険性
リーンバーンとは希薄燃焼という意味で、理論空燃比よりも空気が多く燃料が少ない燃焼方法を指します。
そして、混合気中の燃料濃度が薄いことをリーン状態と表現します。
マツダが進めるリーンバーンエンジンを理解するには、これの何が危険かという部分を理解する必要があります。
基本的にリーンバーンで動き続けるディーゼルエンジンを想像してみてください。
まず熱問題です。
理論空燃比で動いているガソリンエンジンに比べ、圧倒的な発熱量があります。
この発熱量は、燃焼エネルギーの大きさの表れで、エンジンそのものが生み出している原動力になります。
そのエネルギーを受け切る殻の役割をしているのがエンジンです。
通常ガソリンエンジンではスパークプラグを使用することで着火させていますが、異常時には別の方法で着火してしまう現象をあなたはご存知でしょうか。
俗にいうノッキングです。
ガソリンエンジンでリーンバーンを採用するということは、原理的には常にノッキングさせているという異常燃焼状態なのです。
では、リーンバーンの何が危険なのでしょうか。
ディーゼルエンジンでは大きな問題もなく採用されている方式です。
それは、ガソリンという燃料の特性が鍵となります。
そもそもガソリンというものは、マイナス40°Cでも引火することができる燃料になります。
逆に軽油は、40°C以上になるまで引火することはできないのです。
この差80°C以上。
火種さえあれば、ガソリンは過酷状況下においても火をつけることができます。
これがガソリンエンジンの性質なのですが、ディーゼルエンジンの性質は少し違います。
ガソリンの自然発火するのが300°Cなのに対し、軽油は250°C。
50°Cの温度差が存在しています。
この温度にまで燃焼室内を温めているのが圧縮圧力なのです。
厳密にいえば、圧縮された空気が発熱することによって発火させています。
空気を300°Cにまで到達させるために、SKY ACTIVE-Xは圧縮比16という数字を設定しています。
これは、同社ディーゼルエンジンSKY ACTIVE-Dの圧縮比14を超える力が燃焼室内にかかっていることになります。
ガソリンを自然発火させるのですから当然ですが、リーン状態でエンジンを動かす最大の危険性は焼き付きです。
空燃比率が濃いリッチ状態でのエンジントラブルであれば、正直大きな問題もなくパーツ交換で直すことが可能です。
しかし、リーン状態でエンジントラブルを起こすと、ほとんどの場合エンジンの再起は見込めません。
これは、異常温度による異常発火により爆発圧力も異常事態になってしまうことが原因です。
とにかくハチャメチャな状態がエンジン内で起こってしまうのです。
そしてリーンバーンエンジン…
SKY ACTIVE-Xは常にこの状態です。
多少なりともご理解いただけたかと思います。
2.量産されるの?
SKY ACTIVE-Xをレシプロエンジンの状態で量産するのは、コスト面においてかなりの無理がかかってくるでしょう。
爆発圧力に耐え得る素材を使わなければならないことを考慮すると、アルミよりも耐久性のあるものを用意しなければなりません。
重量も問題になるでしょうし、完成形まではまだ道のりが長そうです。
ある程度のレベルまでの作り込みで終わってしまうマツダではないと知っているので、このSKY ACTIVE-Xを踏み台としてロータリーエンジンにSPCCI方式を組み込んでくることを私は予想しています。
1番期待したいのは軽自動車規格での1ローターSPCCI方式です。
そして、FD3Sを真に継承するスーパースポーツカーを実現することもできるでしょう。
リーンバーンエンジンが発するパワー自体は、通常のレシプロエンジンのそれとは比べようもないほど強いものになりますので、スポーツカーには最適だと思います。
3.まとめ 新型エンジンはハイブリッド自動車を抑えられるかがポイント
リーンバーンエンジンによって、基本的な燃料消費量を減らすところに着目したのは評価に値します。
単純に燃料消費量を減らすことができるレシプロエンジンであれば、別にモーターやバッテリーを積み込むハイブリッド自動車よりも軽くリーズナブルに販売展開していくことができるはずです。
SKY ACTIVE-Xはまだ画期的なエンジンであるとまではいえません。
確かにSPCCI方式は新たな可能性を秘めている面はありますが、現段階では低速回転時にモーターエネルギーを補助的に使用していて、マイルドハイブリッドの域を抜け出せていない未完成品だという事実が解消されていないからです。
今後SKY ACTIVE-Xが完璧な状態にまで確立されれば、より小さなエンジンで現在の大排気量と同じだけのパワーを持った小排気量自動車が世の中に出回ることが見込まれます。
これは期待しないわけにはいきませんね。
2019年の量販を目指しているそうですが、今後の動向に目を光らせていかなければなりません。