自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
トヨタのSUVと言えば何を連想するでしょうか。
やっぱり、最近話題のC-HRを連想される方も多いでしょうね。
しかし、トヨタには隠れた?人気のSUVがあるのをご存じでしょうか。 それは、2016年12月の自動車全車種売り上げランキングで、ホンダ・ヴェゼルの14位に次ぐ17位の座についた、トヨタ・ハリアーです。
ハリアーは、SUVではホンダ・ヴェゼルに次ぐ第2位の販売台数を誇っていますし、実は世界にSUVブームをもたらした立役者的存在でもあるのです。
今回は、なぜハリアーが人気を保っているのか、その歴史を踏まえて解説していきます。
■ハリアーは世界初のクロスオーバーSUVだった?
ハリアーは、1997年「高級サルーンの乗り心地と快適性を兼ね備えたクロスオーバーSUV」として開発されました。
当時を覚えていらっしゃる方は、タキシード姿のライオンが颯爽とハリアーを運転するというCMが印象的だったと思います。
ハリアーは、FFセダンのカムリをベースに、車高を上げてSUVに仕立てたクロスオーバーSUVのハシリと言ってもよい車です。
車高の高い4駆に見えるデザインでありながら、実はオンロードでの走行性能や乗り心地を重視したコンセプトは当時全く新しいものでした。
当時のハリアーは、250万から購入することができ、高級車のカテゴリーとしては圧倒的に低価格で、ハリアーは大ヒットとなり、それは世界を驚かせました。
そして、その影響は、BMWが3シリーズセダンや5シリーズセダンをベースにX3、X5を発表しヒットを飛ばしたことや、当時財政難だったポルシェがフォルクスワーゲンと共同でプラットフォームを開発して発売したカイエンが大ヒットとなりポルシェ社の窮地を救うなど、世界的にも大きなSUVブームの流れが作られました。
その影響は今なお続いていて、ジャガーやマセラティ、ランボルギーニ、アルファロメオまでがSUVを作るようになっています。
振り返って見ると、ハリアーはその登場によって自動車メーカーの戦略を大きく変えることになった、きっかけとなる一台と言っても良いのです。
■ハリアーとレクサス・RXの関係
ハリアーの初代と2代目は、海外ではレクサスブランドでレクサス・RXとして販売されていました。
しかし、レクサス・RXが3代目にモデルチェンジするにあたって、国内でもレクサス・RXが販売されることになりました。
しかし、レクサス・RXの価格が400万円台からと、200万円台で購入できるハリアーと比べて大きく値上がりしてしまったため、ハリアーを求める声も多く、さすがに廃止するのは難しいと考えたトヨタは、1世代古いクルマながらも2代目のハリアーを販売し続けました。
しかし、旧型なこともあり、ハリアーの人気もだんだんと陰りが見えるようになってきました。
そこでトヨタが取った戦略はハリアーを国内専用車として新しくして販売し続けるということでした。
■国内専用が功を奏した3代目ハリアー
3代目ハリアーはそれまでのグローバルカーから、国内専用車として生まれ変わりました。
実は、トヨタのこの決断こそが、現在のハリアーの人気を支えるポイントとなっているのです。
ハリアーのライバルといえば、ニッサン・エクストレイル、マツダ・CX-5、スバル・フォレスターなどです。
これらのライバルは全て、世界戦略車として日本だけでなく海外でも販売されています。
海外でも販売されるということは、少なからず日本でのニーズに合わない部分が出てくるということです。
3代目となって、レクサス・RXから独立したハリアーは、ボディーサイズを小さくし、最小回転半径が小さくなり、すこし大きかった排気量は日本の税制に有利なように2リッターに改められました。
その他にも、スマートフォンや携帯電話用の無接点充電器「Qi」(チー)を装備したり、クラウンを思わせるような日本人好みの高級感にあふれたデザインに更新されたのです。
逆にライバルを見渡してみると、欧州的なシンプルなデザインが採用されていることがわかります。
そんなショールームに来るお客様に分かり易いポイントで、ライバルに差を付けることができたのも日本国内専用というメリットがあってこそです。
しかし、ハリアーにも弱点はあります。 それは、シャーシを輸出版RAV-4と共用していることから来る、サイドから見たときのプロポーションの悪さ問題です。
ハリアーは、ライバルのCX-5に対して全長は長く、逆にホイールベースが短いというディメンションを持っています。
つまり、サイドから見るとホイールベースが短く、オーバハングが長いという安定感に欠ける印象を持たれやすいということです。
実際に、このオーバハングが長いサイドからのルックスによって、ハリアーを嫌悪する方も少なくないとか。
しかし、実際に実車を見るとエクステリアデザイン、インテリアデザインともにSUVとしてはクールで都会的、そして分かりやすく豪華な物となっています。
それでいてエントリーグレードが280万円台なら、売れているのもわかるというものです。
■日本的豪華さは実は世界でも通用するのでは?
話は少し変わりますが、アメリカの「25年ルール」というものをご存じでしょうか。
それはアメリカ国内で正規販売されていない外国の車は販売から25年経過するまで安全基準の問題から輸入することはできず、25年経過すればヒストリックカー輸入できるというルールです。
そんな25年ルールによって、古い国産車の中古車価格が急騰することがまれにあります。
有名なのは、スカイラインGT-Rなどですが、最近話題になったのは、25年前のセドリック・グロリアがアメリカで100万円以上で売れたという話です。
25年前というとY31やY32と言われる型になりますが、それこそ日本独自のおもてなし装備が満載だった頃の車が、アメリカで高く売れたということになります。
そんな話を聞いた筆者は、もしかすると現在の国内の自動車メーカーがこぞって、世界戦略といって、ドイツ車的なデザインやインテリアに近づけた車を作っていますが、逆に日本で売れるデザインや装備を追求し、高めることによって日本的な装備や品質によって国際的な競争力を高められるのではないのかと思ったりもします。
もしかしたら25年後に現在のハリアーがアメリカで高く売れるようになるかもしれませんね。
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