自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
最近はスマートフォンの普及により、車内でスマートフォンを利用する機会が増えているのではないでしょうか。
スマートフォンのアプリには、無料のカーナビアプリなど自動車で利用することを前提に作られた物も多く見られます。
また、最近発売される自動車はUSBが標準で用意されており、スマートフォンをケーブルで接続するだけで音楽再生が可能というのも、もはや当たり前になっています。
その反面、スマートフォンや携帯電話を運転中に注視していたことが原因の事故も発生しています。
スマートフォンの操作に気を取られて発生する事故が増加しているのは日本だけでなく世界中の問題となっています。
そんな、世界中の社会問題ともなっている、スマートフォンの運転中の利用に対する、メーカーの対応が、AppleのCarPlayとGoogleのAndroidAutoなのです。
■Apple CarPlayの変遷
世界で最初に車内向けのスマートフォン利用のプラットフォームを発表したのはAppleでした。 2012年にWWDCでAppleが発表したのは、CarPlayの前身となるEyes Freeです。
Eyes Freeは、車内のトークボタンを押すことによってSiriを呼び出し、音声によってスマートフォンの操作を行うというコンセプトでした。
このEyes FreeでAppleが実現したかったのはスマートフォンを画面無しでコントロールすると言うことでした。
しかし、まったく画面を見ずにスマートフォンを操作できる範囲は狭く、そのコンセプトは変化していきます。
実際、Eyes Freeは9社の自動車メーカーがパートナーとして発表されましたが、実際にEyes Freeを搭載した車は数えるほどしかありませんでした。
Eyes FreeからiOS in the Carを経てCarPlayが発表されたのは、それから2年後の2014年3月に発表されたiOS7.1が最初になります。
CarPlayは、Eyes Freeが目指した音声のみによるコントロールから、車載モニターと音声コントロールを併用したコンセプトに進化していました。
Appleは、CarPlayを発表するのに際して、メルセデスベンツ、フェラーリ、ボルボの3社をパートナーとして発表し、世界初のCarPlay対応の自動車としてフェラーリFFが紹介されました。
CarPlay最初の車にフェラーリを選ぶところにAppleのCarPlayへの自信と、ブランド戦略が現れています。
そして、2016年現在では多くのメーカーと車種でCarPlayが利用できるようになっていることが、CarPlayのページで確認することが出来ます。
国産車でCarPlayを標準装備で仕様できる車として、スズキのイグニスがあります。
そのほか、サードパーティーでは、Pioneerやアルパイン(国内未販売)が対応機種を発売しています。
■Google AndroidAutoの追撃
GoogleはAppleに遅れて2014年6月にAndroidAutoを発表しました。
実際に利用可能となったのは2015年発表のAndroidOS5(Lollipop)からになります。
GoogleのAndroidAutoの初採用車は、OAA(Open Automotive Alliance)を結んでいた現代自動車(ヒュンダイ)のソナタでした。
スマートフォンの車載プラットフォームとしては出遅れた感のあるGoogleでしたが、現在では多くのメーカーが採用していることをAndroidAutoのページで確認することができます。
ただ、GoogleのAndroidAutoは、利用者の情報などをGoogleに送信している疑いがあるとして、系列のVWやAudiがAndroidAutoとCarPlayを同時に採用するなか、ポルシェだけがAndroidAutoを採用せずに、CarPlayのみを採用しているという点が興味深いです。
また、トヨタはCarPlayもAndroidAutoも採用せず独自のプラットフォームを使用することを表明しています。
そして、Googleは2016年11月に、これまでAndroidAutoが、車両側の機器での対応が必要だったのを、スマートフォン単体でAndroidAutoの機能を利用できるようにしたと発表しました。
これによって、車両側の対応を待たずに、Android端末を車のスマートフォンホルダーに取り付けるだけで、利用できるようになったのです。
今後、AppleのCarPlayがこの動きに追随してくるかが注目されます。
■CarPlay、AndroidAutoで何が出来る?
CarPlayとAndroidAutoでは一体何ができるのでしょうか、そして両者にはどれほどの差があるのでしょうか。
実は、CarPlayもAndroidAutoもできる事にあまり違いはありません。 まず、音声による操作ですが、これはCarPlayもAndroidAutoも大きく違いはありません。
AppleのSiriも、GoogleのGoogle Assistantも音声認識は十分実用的です。
音楽再生も、CarPlayがライブラリの中の曲を全て探すことができるのに対して、AndroidAutoはプレイリストしか表示されないといった多少の違いはありますが、大きな差はありません。
電話やメッセージングも両者とも利用可能です。
ナビゲーションは、CarPlayはMapアプリ、AndroidAutoはGoogleMAPを使用しますが、どちらもVICSによる渋滞情報には非対応で、AndroidAutoはGoogleMAPの独自の交通情報を利用可能です。
その他にも、CarPlayやAndroidAuto対応のアプリケーションの開発も可能ですが、まだまだ一般的に普及していないため、アプリの開発は限定的なものにとどまっているようです。
■CarPlayとAndroidAutoは、車載器の置き換えとなれるか
CarPlayやAndroidAutoが、現在の自動車のカーナビゲーションシステムやインフォテイメントシステムを置き換えることができるかというと、残念ながらそこまでの実力は無さそうです。
多くの自動車メーカーはCarPlayやAndroidAutoを採用していますが、それはメーカー独自のナビゲーションシステムやインフォテイメントのひとつの機能として、AppleやGoogleのスマートフォン接続機能の一つとしてサポートしているといった状況です。
ですので、CarPlayやAndroidAutoが自動車のインフォテイメントシステムを置き換えてしまう時代がすぐにやってくるかというとそうでは無さそうです。
ただ、欧州のエントリークラスの自動車には自動車の車載器としてモニターを持っておらず、スマートフォンの固定具とUSB端子のみが用意されている場合もありますので、その様なクラスの車のナビゲーションシステムやインフォテイメントシステムとしてCarPlayやAndroidAutoが活躍するという場面はありそうです。
■日本国内での導入はまだまだ限定的、今後の発展が楽しみ
欧米では多くのメーカーがサポートしているCarPlayやAndroidAutoですが、実は日本国内でされているのはまだまだ限られた車種のみでしか採用されていないというのが実情です。
筆者は、かなり前からiPhoneを車のオーディオに接続して音楽を楽しんでいますが、国内でも音楽以外のスマートフォンの機能を利用可能になるCarPlayやAndroidAutoが普及することをとても楽しみにしています。
今後、もっと多くのメーカーがCarPlayやAndroidAuto、もしくはそれを更に発展させたプラットフォームが一般的になり、車での移動におけるインフォテイメントがさらに便利になることを期待しています。
クルマに関する豆知識や旬な情報をお伝えする「クルマの基礎知識」