ミニバンと言えばどんな車を連想されるでしょうか。
7人乗りや8人乗りの大型の乗用車もミニではないのになぜか「ミニバン」と呼ばれています。
普段私たちは、なんとなく「ミニバン」と呼んでいますが、ベルファイアやエルグランドなどは、どう考えても「ミニ」ではありませんよね。
それなのに「ミニバン」と呼ばれるのはどうしてでしょうか。
そんな「ミニバン」と呼ばれる車たちについてご説明します。
■ミニバンの「バン」は商用車という意味?
そもそも、「バン」(Van)という言葉には「商用車(貨物車)」という意味があります。
日本でも商用車のことをバンと呼びますが、「ミニバン」で言うところの「バン」は商用車をさしているわけではありません。
むしろ乗用車で、車高が高く、7名?8名乗車可能な車のことを指すことが多いようです。
では、なぜ「ミニバン」と呼ばれるようになったのでしょうか。
■昔は「ミニバン」と呼んで無かった?
日本で初めてのミニバンと考えられているのは、1975年の東京モーターショーに参考出品された「トヨタ・マルチパーパスワゴンMP-1」です。
その後、1982年に「ニッサン・プレーリー」や「三菱・シャリオ」が発売されますが、シャリオが「SSW(スーパー・スペース・ワゴン)」という名称で開発されていることを考えても、当初から「ミニバン」という呼び名が日本にあったとは考えられません。
同様に、ヨーロッパではこのような多人数が乗車可能な車のことを、MPVとか、ピープルムーバー、モノスペースなどと呼ぶことが多いそです。
「マツダ・MPV」などは、ヨーロッパの車のカテゴリーをそのまま車名にしているわけですね。
■「ミニバン」の語源はアメリカから
アメリカでは、全長5メートル以上の大型の貨物や業務用のVan(バン)に対して、一般的な乗用車と同じモノコックシャーシを使用して、FF化、小型化したものを「ミニバン」と呼ぶようになりました。
そして、それまでの「バン」は「フルサイズバン」と呼ばれるようになりました。
アメリカで、この「ミニバン」という呼び名は、クライスラーのダッジ・キャラバンや、プリマス・ボイジャーが始まりだったと言われています。
そして、この「ミニバン」をアメリカのアッパーミドル層の教育熱心なお母さんたち(サッカーマム)が子供を送迎する車としてこぞって利用したため、ヒットしたのです。
それは、ミニバンがFFの乗用車ベースで床が低く乗り降りしやすく、乗り心地も乗用車並に良かったことが要因だったと言われています。
それに対して、日本では1970年代からトヨタのノア・ボクシー、日産のセレナの前身となる1BOXの商用バンを乗用車化したトヨタのタウンエースやライトエース、日産バネットなどがありました。
しかし、これらは商用バンを乗用車に転用しただけのものであり、決して使い勝手の良いものとは言えないものでした。
その後、80年代にかけて乗用車ベースの多人数が乗れる車としてトヨタのエスティマなどが発売されましたが、「ミニバン」という呼び名は使用されず、「ワンボックスカー」と呼ばれていました。
■日本での「ミニバン」の始まり
日本で「ミニバン」という呼び名がメジャーになったのは80年代の後半の事です。
1987年に登場したシボレー・アストラはアメリカで大人気になりました。
その人気が日本に波及し、アメリカから日本にアストラなどのミニバンがたくさん輸入されるようになりました
日本に輸入されたミニバンは、豪華な内装やエアロパーツでカスタマイズされた個体が多かったためか、ミニバンと言えば豪華で押し出しの強い感ものというイメージが定着したようです。
また、ボンネットバンといわれるアメリカ独自の1.5BOXのボディー形状もミニバンのアイコンとして定着しました。
そんなアメリカの「ミニバン」の流行を目の当たりにした国産メーカーが、こぞって同様な車を作り始めたことが、現在の「ミニバン」という呼び方の始まりとなったと考えられます。
トヨタ・アルファードや、ニッサン・エルグランドと言った大型サイズの車種までも全て「ミニバン」と呼ばれるのには、このような理由があるのです。
そして、日本の「ミニバン」という呼び名は、ボンネットバンの形をした、比較的大きなサイズの車というだけではなく、さまざまなバリエーションの車にも広がっていきます。
そう、「ミニバン」という呼び名が、日本独自の進化を始めたわけです。
■究極の低床化ミニバンオデッセイ
ホンダ・オデッセイはミニバンの中でも全高の低いボディー形状が特徴です。
しかし、乗ってみると室内の高さは他のミニバンにも劣らないものを持っています。
それは、ホンダ独自の低床化技術によるもので、低床化によって低重心を実現し、乗用車と同様の操縦安定性を手に入れたことも人気の要因の一つとなりました。
■ミッドシップのワンモーションフォルムが特徴のエスティマ
エスティマは、1BOXでも1.5BOXでもないワンモーションフォルムをまとったミニバンとして注目を集めました。
エンジンを車体の中央に配置したミッドシップレイアウトであるため、操縦安定性も高く、独自の人気を保っています。
そして現行のエスティマは2006年から3回のマイナーチェンジを経て、10年という異例に長いモデルスパンを誇ります。
つい最近もマイナーチェンジし、更に魅力を増しています。
■コンパクトクラス、軽自動車にもミニバンの波
最近モデルチェンジしたホンダ・フリードはコンパクトサイズのミニバンの流行を作ったと言っても良い車種です。
トヨタ・シエンタも同様に、4.2メーターほどの全長に7名乗車を可能にしている点、両側スライドドアによって、それまでの「ミニバンは大きくて持てあます」と感じていた家族層などに大いに受け、ヒットしています。
そして、軽自動車にもミニバンの波は波及しています。
法規上3列シートは無理な軽自動車ですが、スズキのワゴンR、ダイハツのムーヴから始まるトールワゴンタイプの軽自動車も「ミニバン」と呼ばれることがあります。
スズキ・パレット、ダイハツ・タントやウェイク、ホンダ・NBOXなどはスライドドアまでも装備しているので、まさにミニバンと呼んでしまっても良さそうです。
■ミニバンの明確な定義は難しい。でも、広くて便利な車は楽しい
このように、「ミニバン」の語源は、アメリカのフルサイズバンと比較して小さなバンのことを「ミニバン」と呼んだことから始まりました。
しかし、現在の日本ではこの語源の意味は薄れていて、スライドドアがあり、車内で移動できるぐらい車室内の高さがある便利な車は全て「ミニバン」と呼ばれていると言ってもよいほどです。
「ミニバン」というカテゴリーを明確に線引きすることは難しそうですが、難しいことを考えず、多人数で乗れて、広くて便利で楽しく使える車は、みんな「ミニバン」と呼んでしまっても良いのかもしれません。