自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
2018年9月26日、英国の高級車メーカー、ジャガー・ランドローバー日本支社は、ジャガー初の電気自動車(EV)「I-PACE(アイ・ペイス)」の発売を発表しました。
同時期には、メルセデス・ベンツやアウディが相次いで新型EVを発表しています。
環境意識の高い富裕層を狙ったEV競争は、益々激化しそうです。
I-PACEは、5人乗りのスポーツ用多目的車(SUV)で、1回のフル充電で470kmという長い航続距離を誇ります。
これだけの航続距離を叩き出せる理由は、日産リーフの40kwhの2倍強にあたる、90kwhのリチウム電池を搭載しているためです。
時速100kmには4.8秒で到達し、モーターの出力は400馬力。
価格は959万円からで、全国の正規販売店で受注を開始し、納車は2019年3月から開始予定です。
同社は、2020年までにランドローバーを除く全車種に電気自動車モデルを設定することを発表しています。
•I-PACEのボディサイズ
❏全長:4,682mm ❏全幅:2,011mm ❏全高:1,565mm ❏ホイールスペース:2.990mm ❏最低地上高:142mm ❏最小回転半径:5.99m
❏トランク容量:638L(アクティブエアサスペンション搭載時))~656L
※以上は欧州仕様車のサイズとなるため、日本仕様車のサイズは変更になる可能性があります。
ジャガーからはE-PACE、そしてF-PACEという2つのSUVが販売されています。
これら2車種とボディサイズを比べてみましょう。
I-PACEの全高は、1,650mm台のE-PACEやF-PACEより低くなっていますが、全幅については先輩車種が双方共に1,900mm台と、I-PACEの方が広くなっています。
しかし、I-PACEの特徴をもっともよく表しているのは全長およびホイールベースです。
全長はE-PACEとF-PACEの中間のサイズになるのですが、ホイールベースはI-PACEがもっとも長く、ジャガーがいかにゆとりのある車室にこだわったのかが伝わってきます。
•I-PACEのエクステリアはクーペスタイル
I-PACEのエクステリアは、SUVタイプでありながら,後方に向かって下がってゆくクーペスタイルでもあります。
ホンダのヴェセルやトヨタのC-HRなどと同じ、世界中でとても人気のあるボディタイプです
I-PACE独自のスタイルは、スパイ映画「007」に登場するスーパーカー「C-X75」モデルを参考にしていることが分かっています。
流線型のクーペスタイルに短く低いボンネット。
ルーフは空力特性の向上を意識したデザイン。
電気自動車でありながら、スポーツカーと比べても遜色ないスタイルや性能を有しています。
•I-PACEのインテリアは高級感たっぷり
I-PACEのインテリアは落ち着いたグレーの配色で、インナーハンドルには淡い電球色のインテリアライトが装備されています。
パネルには木目調の加飾が使用されており高級感漂う仕様です。
ドライバー側(左側)のフロントガラスにはヘッドアップディスプレイが搭載されており、現在のスピードやナビなどの情報が確認できます。
前方から視線を外さずに情報確認ができるため、安全に運転ができる設計です。
•I-PACEの機能性
コックピットには、ドライバーをアシストしてくれるスイッチやパネル類が機能的に配備。
更に、ステアリングハンドルにはクルーズコントロールを起動するスイッチの他、ハンズフリースイッチも装備されています。
ドライブレンジは、センターコンソールにあるD・N・Rのスイッチでシフトチェンジする方式です。
シルバーリングのダイヤルには、左右それぞれのエアコン温度が表示されるようになっています。
ダイヤル横のディスプレイでは、シートのヒーターとベンチレーションの温度を設定できるようになっています。
•I-PACEの性能・パフォーマンス
❏パワートレイン
I-PACEは、フロントとリア両方のアクスルに搭載された永久磁石同期式電動モーターで走行します。
電気自動車によるF1「フォーミュラE」で使用されているI-TYPEレーシングカーと同じ技術を採用。
最高出力400PS・最大トルク696N・mを発揮します。
❏ボディサイズ
I-PACEはコンパクトな外見からは想像がつかないほど、ゆとりあふれる空間。
5つのフルシートに加え、1,453Lを超えるラゲッジスペースや、フロントの27Lにも及ぶ収納スペースといった、高い収納力を誇る複数の収納スペースを持ち合わせています。
❏充電
充電ステーションにて50kwのDC急速充電器を使用すると、最大270kmの航続距離分を1時間で充電可能です。
❏航続距離
1回のフル充電による航続距離は、WLTPモードで470kmです。
WLTP:乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法。
2017年から段階的に導入されている新たな基準。
欧州における乗用車の燃料やエネルギー消費、航続距離、排出ガスを測定する。
日本では2018年10月から導入開始。
❏パフォーマンス
トラクションのかかりやすい前輪駆動と素早く湧き上がるトルクが、スポーツカーのような加速を実現します。
時速100kmまでの到達時間は、わずか4.8秒です。
最高出力は400PS、最大トルクは696N・mというハイパワーを叩き出します。
ジャガーF-PACEと同様のAWDシステムを装備しているため、雨で濡れた路面や積雪の道路でも安心して運転することが可能です。
❏バッテリー
I-PACEに搭載されている90kWhのバッテリーには、パウチセル型のリチウム電池を採用。
この電池には、エネルギー密度が高いという特徴があります。
また、電池の持ちの良さと、長期に亘る最大電力の維持は、独自の設計と最新の温度管理システムによる賜物です。
•I-PACEのパワーエレクトロニクス
I-PACEのパワートレインに関して特筆すべき点は、コンチネンタル社により開発されたパワーエレクトロニクスです。
このパワーエレクトロニクスは、モーターに電力を供給し、エネルギー回収システムを制御するという、高電圧バッテリーとモーターをつなぐ重要な役割を担っています。
仕組みを詳しく説明すると、I-PACEのバッテリーにはDC電流が供給されているのですが、モーターは三相AC電源によって作動します。
そのため、パワーエレクトロニクスにインバーターを搭載して、DC電力を交換する必要があるのです。
もともとI-PACE用に開発されていたパワーエレクトロニクスでは、最大電力を1秒未満で供給することができませんでした。
しかし、大電流と極端な負荷変動に対応させる為に、最大650Aまでの電流に対応するパワーエレクトロニクスをがコンチネンタル社により開発された為、停止直後の振るスロットル加速も可能となりました。
•I-PACEの市場性
I-PACEは、2017年夏初めてにコンセプトモデルが発売されました。
その後、2018年3月に欧州市場で発売され、同年9月には日本市場においても発売が開始されています。
ジャガー社から発売されているSUV「F-PACE」の発売価格は640万円でしたが、I-PACEはそれ以上に高く、最安モデルでも959万円からとなっています。
EVのパイオニアともいえるテスラ社からは、モデルSが990万円という非常に近い価格で発売されており、I-PACE最大のライバルとしてEV市場に君臨しています。
EVでは世界一のシェアを持つ日産リーフの販売価格が315万円であることから考えると、割高感は否めません。
しかし、EVに熱狂する日本の富裕層の間では、あまり抵抗なく受け入れられることでしょう。
•EVの市場における将来性
イギリスでは、2040年を目処にガソリン車とディーゼル車の新規販売を禁止すると発表しており、フランスやドイツなどのEU諸国にもこれに追従しようとする動きが見られます。
今後の自動車市場では、燃費の良いハイブリッド車や、排ガスを出さない電気自動車が主流となることは明白です。
ジャガー社も2020年までにランドローバーを除く全車種をEV化することによって、欧米を始めとする世界の潮流に適合する方針です。
地球温暖化対策は、世界の至る所で議論され実行されています。
排気ガスを出さないEV。
その貢献度は計りしれないものがあります。
•ジャガー社の思惑
ジャガー社が電気自動車に取り組むのは、今回が初めてではありません。
I-PACEの2年前には、プラグイン・ハイブリッドの「XJ_e」のプロトタイプを発表しています。
ハイブリッド・パワートレインを搭載したコンセプトカーである「C-X16」や「C-X75」も披露しました。
しかし、技術的な面が原因でいずれも市販化には至りませんでした。
その代わりに、小排気量のディーゼルエンジンを開発して欧州で発売し、CO2排出量を抑えようと試みたのです。
ジャガーは、ここに来てやっと排気ガスのないEVの開発に成功し、EV市場への参入を開始したのです。
1970年代から2000年代にかけて、イギリスの自動車メーカーの多くが淘汰され、今は亡き「モーリス」や「トライアンフ」といった自動車ブランドが歴史の波に飲まれていきました。
ジャガーは、インド資本のタタ・モータースの傘下になりました。
しかし、今も高級車・スポーツカーブランドとして存続している希少な存在でもあります。
ジャガーブランドは日本においても、ステータスの高い高級車として根強い人気を維持しています。
■こちらの記事も合わせてどうぞ!!■
クルマに関する豆知識や旬な情報をお伝えする「クルマの基礎知識」