自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
非常に注目されながら登場したAppleの「CarPlay」とGoogleの「Android Auto」がどんなものかについては以前の記事でご説明した通りです。
CarPlayとAndroid Autoは、輸入車では採用が進んでいて、輸入車のインフォテイメントシステム(カーナビやオーディオを統合して車載の画面などに情報を表示させるシステム)に採用されることが増えています。
一方で国産メーカーの車には、スズキを除いて、標準でCarPlayやAndroid Autoを採用することはあまりないようです。 この違いはどこから来るのか。
それは、日本独自のカーナビゲーションシステムの発展が関係しています。
■日本車とヨーロッパ車のカーオーディオの違い
日本では、古くから「DIN」というオーディオを取り付けるための共通規格のスペースが自動車に用意されていることが一般的でした。
共通された規格であれば、さまざまなサードパーティメーカーのオーディオやカーナビを取り付けることができます。
このスペースに自分なりのこだわりのオーディオやカーナビを取り付けること自体が日本ではクルマ選びの楽しみの一つになっています。
カーナビが発達してからは、DIN規格を縦に2つ使って7インチ程度のモニターにナビゲーションやオーディオの情報を表示させるようなカーナビゲーションシステムとオーディオ機器の融合が進みました。
一方、ヨーロッパでは、デザインについては自動車の車内にもこだわっていましたので、DIN規格のスペースを準備するのではなく、独自にデザインしたオーディオを車と一体化させたデザインのものが用意されることが多くなっていました。
現在でも輸入車のコンパクトクラスのモデルでは、DINスペースもなく、モニターも搭載されておらず、スマートフォンをオーディオやナビに利用することを前提に設計されている車もちらほら見かけます。
そして、ヨーロッパは日本と比べてカーナビゲーションが一般化するのが遅れたという事情もあり、日本のようなカーナビゲーションとオーディオの融合が遅れたことも一つの理由であると考えられます。
■日本製カーナビの高性能化が早かったため
このように、日本ではヨーロッパよりも早くカーナビゲーションシステムが普及しました。
そして、DINを2つ使った大画面によるカーナビゲーションシステムとオーディオの融合が進み、さまざまなメーカが機能や価格を競い合うことによってどんどん進化していきました。
その結果、カーナビゲーションシステムは非常に高機能になり、地図や施設の情報も非常に豊富で、VICSなどの日本独自の渋滞情報の取得に加えてメーカーごとの独自のプローブ情報による渋滞予測までもが用意されるようになりました。
そして2015年あたりからでは9インチや10インチといった大型のモニターを車種専用の取付けパーツによって、メーカー純正のモニターのように設置できるものが販売されるようになりました。
それだけでなくオーディオシステムも進化しており、これまた特定の車種にぴったり合うように音場がセットされた設定を持っていたり、ミニバンでは子供用のテレビモニターをヘッドレストや天井に取付けられるものが売られています。
■CarPlayやAndroid Autoに足りないものとは
CarPlayやAndroid Autoは、スマートフォンの一部の機能を自動車に搭載されたモニターやコントローラーで操作することができるしくみです。
このしくみ自体は運転中にスマートフォンを注視することを防止して、スマートフォンの最低限の機能を運転手に対して提供することが主たる目的です。
そのために、CarPlayやAndroid Autoで利用することのできるアプリは、音楽再生、電話やメッセージ、AppleのMapやGoogleMapを利用した簡易なカーナビゲーションに限られているのです。
たとえば、「Yahoo!カーナビ」はスマホアプリのカーナビゲーションとして非常に人気がありますが、CarPlayやAndroid Autoを使ったとしても自動車のモニターにYahoo!カーナビの画面を映すことはできません。
もちろん、YouTubeのような動画アプリも表示させることはできません。
つまり、日本独自に進化したカーナビゲーションシステムと、CarPlayやAndroid Autoでは、後者の方が機能が劣ってしまうわけです。
筆者も最近購入した車にスマートフォン連携機能が搭載されていましたのでCarPlayを試しましたが、利用できるアプリが少ないうえに、自動車メーカーが最初から用意しているカーナビや電話、オーディオの機能と重複しまう部分が多く、これといった利用方法を見つけ出せませんでした。
また、国内のカーナビゲーション・オーディオメーカーは自社の売りであるナビゲーションやオーディオを手軽で簡易なスマホアプリに取って代わられたくないので、CarPlayやAndroid Autoを自社製品に積極的に搭載するとは考えにくいわけです。
逆にヨーロッパでは、高級車を除くとまだまだカーナビゲーションはそれほど普及していません。
カーナビゲーションやオーディオシステムは日本で売られるときには全て標準装備ですが、ヨーロッパでは、オプションとして用意されていますので、カーナビゲーションやインフォテイメントシステムにお金をかけたくないというユーザーも実際存在します。
それでも車内で安価にカーナビやオーディオを使いたいという要望に応える形でCarPlayやAndroid Autoを用意しているという背景もあるわけです。
■日本でもメーカー製インフォテイメントシステム普及が進む
最近では日本でも、DIN規格のオーディオベイを持たず、メーカー製のインフォテイメントシステムを持つ車が多くなりました。
マツダのマツダコネクトやホンダS660、レクサスなどはDIN規格のオーディオやカーナビを取り付けるスペースを持っていません。
このようなメーカー純正のインフォテイメントシステムが普及すれば、国産メーカーの車でもCarPlayやAndroid Autoを搭載されることも十分考えられます。
日本市場では、今後、自動車のインフォテイメントシステムがどのように発展していくか楽しみです。
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