自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
2018年7月の西日本豪雨における大洪水や、北海道地震の液状化では、水没した自動車が多発しました。また、東日本大震災では、推計で24万台の自動車が流されたとされています。
ニュースなどで映し出される、多くの自動車が無残にも流されてしまっている映像を見ると、心が痛むと同時に、被害にあった自動車はどうなるのかも気になるところです。
水没した自動車には、悪いイメージが付きがちです。
「水没した自動車はスクラップ同然の扱い」
「高い自動車も水没すれば、下取りに出せても二束三文」
これでは、次の自動車を買い換える気力さえも失いそうです。
自然災害は防ぎようのない災難ですが、水没してしまった自動車に価値はないものなのでしょうか。水没による被害車の行く末を追っていきます。
1.水没は避けることのできない災害
災害による水没者の多発、この原因は日本の気候や地形にあります。
日本は海に囲まれた島国である上に、地震の多い国です。
また、台風も多く通過していきます。
これらの要素から、日本は津波や豪雨に見舞われやすく、多くの水害をもたらしてしまうのです。
2.どこまでが水没車なのか?
日本には、日本自動車査定協会という組織があります。
ここでは自動車の査定基準が設けられており、水没車には、以下の査定基準が定められています。。
❏室内フロア以上に冠水した自動車
❏浸水の痕跡が複数残されている自動車
なお、「室内に残されている浸水の痕跡」とは、以下のようなものを指します。
1.サビ・腐食
浸水すると、室内の金属部分にサビや腐食が見られるようになります。
おもな場所を挙げると
•シートのスライド部分 •シートベルトの金属部分
•コンソールボックスのねじ
このような目につきにくい場所は錆び、フロアマット周辺の金具部分など、乾燥しづらい場所は腐食していきます。
2.シミ・汚れ
食べこぼしやたばこの汚れなど、自動車には生活感のあるシミや汚れがつきものです。
しかし、水害車にはシミや泥汚れ痕が広範囲に渡って残るため、使っている以上仕方のない汚れとは明らかな違いが生じます。
また、足元やアクセルペダル、ブレーキペダルなどが集中している辺りは、構造が複雑になっているため、シミや汚れがあっても見落としがちです。
3.ドロ・カビの臭い
水害を受けた自動車は、鼻につくようなにおいがします。
これは、自動車がかぶってしまった水は泥水であったり汚水が多く含まれているためです。
これが海水や川の水であっても、水の臭いは簡単には取り切れません。
浸水してしまった自動車が完全に乾くには時間がかかるため、いくら掃除をしてもドロやカビの臭いが残ってしまうのです。
また、エアコンを作動させた時の異臭は明らかです。
ダストに溜まった水や泥がカビ臭となり、エアコンの風と共に室内へ入り込んできます。
3.水没車の故障箇所とは?
自動車が水没してしまっても、室内に問題がない場合もあります。
しかし、室内に問題がなくても、水害によりエンジンの故障などが見受けられた場合は、同じく水没車としての扱いになるため、注意する必要があります。
また、水没車の故障には、既に不動車になっているものと、時間を置いて出てくるものがあります。
そして、すぐに故障した自動車以上に問題なのが、後から不調が明らかになる自動車です。
「エンジンがかかったから大丈夫だろう」と安心していても、数年後、自動車の調子が悪くなるケースも考えられます。
水没車はエンジンだけではなく、電気系統の故障も多いです。
大型台風の影響で、多くの自動車が燃えてしまった神戸の映像は衝撃的でした。
あっという間に、何千台もの自動車が燃えてしまうことを、誰が予測したでしょうか。
電気系統に水が入ると漏電し、避難のために慌ててエンジンをかけると発火する恐れがあるのです。
また、電気系統の故障については、大きな水害だけでなく、日常で起こるちょっとしたトラブルが引き金になることもあります。
•深めの水たまりに無理矢理突っ込んで回避した
•川や海の深みにハマってしまったけれど出ることができた
このような状況でも、エンジンルームには予想以上の水が入ってしまうこともあります。
自動車には多くの電気系統があります。
自動車に水が入れば、焦るのも当然です。
しかし、明らかにエンジンルームに水が入り込んでいる状態で自動車を動かすと、発火する恐れがあるため、なるべく避けるようにしてください。
最近ではハイブリッド車など、漏電対策が施された自動車もありますが、電気回路がある限り、100%安全ではないことを念頭に置くようにしましょう。
4.水没車の行く末はどうなっていくのか?
残念ながら水没車になってしまったあなたの愛車、もうこれで終わりなのかと諦めるのはまだ早いです。
「水没車は解体するしかない…」
いいえ!そうではありません。
水没車でも、次の自動車を購入する為の資金になる可能性が残っています。
1.車両保険に加入しているか確認
水没車には、車両保険が適用される可能性があります。
車両保険には2種類あります。
•一般車両
•エコノミークラス【車対車+A】
両方の保険が水害での被害者に対応してくれるため、まずは自分が加入している任意保険の内容を確認しましょう。
車両保険における注意点は、地震・津波で起きた水害であるかどうかです。
地震や津波での補償は、一般的な自動車保険にはありません。
東北の震災では、多数の自動車が水害にあったことを受け、地震でもカバーしてくれる特約も商品化されましたが、加入率は低いのが現状です。
しかし、特約に加入していれば、全損時には保険金を受け取ることができます。
臨時費用特約や新車特約など、車両保険には多くの特約があり、保険会社によって補償範囲も違います。
これらをしっかりと理解したうえで車両保険に加入しておけば、たとえ災害によって愛車が水没してしまっても、慌てることなく次の自動車を購入することができます。
水没車は、保険会社が引き取りをしてくれる場合が多く、自分で処理をする必要もなく、やることは書類を揃える程度です。
2.外国で人気の日本車は水没車でも売れる
日本車は海外で大人気の商品です。
日本の技術力は高く評価されており、それは自動車に関しても同様です。
日本では、水没車はリスクの高い自動車として買取されないケースも多くあります。
実際、中古車市場での水没車に対するチェックは、事故車同様厳しく
「動いているから問題ない」
「フロア部分が浸水しただけで、しっかり掃除もした」
といった中古車は、買取の対象にならない可能性の方が高いでしょう。。
また、簡単に考え告知せずに販売すると規約違反となり大きなペナルティーを科せられる場合も出てきます。
それほど日本での水没車に対する評価は厳しいことを覚えておきましょう。
しかし、海外、特に東南アジアなどからは、多くのバイヤーが日本車を求めてやってきています。
実際、タイやベトナム、スリランカなどに行くと、昭和時代の懐かしい自動車がまだ現役で仕事をしています。
日本ではボコボコで走りたくないような自動車でも、海外では人気車種だということも珍しくありません。
海外のバイヤーたちは、常にネットオークションを閲覧しています。
仮に日本のオークションに出品するとしても、水没車として出品すれば問題はありません。
また、国内にも中古車を買取してくれる業者はあるため、水没車を買い取ってくれる業者を探して、査定してもらいましょう。
3.パーツとして再利用
全く動かなくなった自動車は、廃車して解体するしかない。
確かに動かない自動車は、自動車としての価値はありません。
しかし、自動車のパーツを再利用することは十分可能なのです。
自動車のパーツは、日本や海外でも幅広く取引されています。
水没してしまった自動車でも、すぐに解体に回さずに、使えるパーツを取り外し、中古部品として販売することが十分可能です。
注意しておきたいのは、日本では販売して利益を得ることを禁止されているニコイチ車の存在です。
水没車の中には、外装は綺麗でもエンジン不動といった物も少なくありません。
自動車の生きている部分を繋ぎ合わせ、中古車として販売する悪徳業者も紛れ込んでいるため、信頼できる中古パーツ買取業者に委託しましょう。
まとめ 水没車になってしまったと諦めない!
水害は、とても速いスピードで襲ってきます。
ある年、筆者の自宅前の道が大雨であっという間に冠水しました。
この道は主要道路のため、多くの自動車が無理矢理通行して立往生。
数台の自動車がレッカー搬送された風景を目の当たりにしました。
「修理工場で見積もってもらったら、50万という破格の金額だった。」
そう嘆く友人もいました。
50万かけて修理したとしても、水没車としての名前は残るのが現実です。
ただ「長年愛用している自動車をいきなり解体するのは…」と悩むのも仕方がないでしょう。
日本で生活している限り、水害は他人事ではありません。
目の前で愛車が浸水してしまったらパニックになるのは当然のことです。
しかし、命が助かることが最優先!
自動車に乗っていて水没の恐れがある場合は、すぐに自動車から降りて脱出すること。
水没車は、車両保険に加入していれば、範囲の差はあれど補償を受けることができます。
また、車両保険に未加入でも、専門の買取業者に相談すれば解決の糸口が見えてきます。
水没車であっても、廃車して解体するしかないと決めつけず、次の生活へのステップになるようにしましょう。
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