一般的な自動車は、常に直進の位置にハンドルが戻るよう設計されています。
ハンドルを放していても、およそ真っ直ぐに進むことができ、ハンドルを戻す力も必要ありません。
この、操縦感覚の良さや安定性にはキャスター角などの足回りが影響しているのです。
キャスター角を初めとするホイール・アライメントは、自動車の走行性能や操縦のしやすさを握る大切なカギです。
自動車のカスタムしていく上で、ホイール・アライメント周辺の知識を知らずに手を出していくことは、プロとして「今すぐ作業を中止してください!」と注意するレベルの愚行です。
まずは、ショックやブレーキなどに手を加えるよりも【なぜホイール・アライメントは存在するのか】という根本的なところの知識を身につけて頂きたいと思います。
その第1弾として、走りやすさや運転のしやすさに直結するキャスター角について深掘りしていきます。
1.キャスター角って何?
キャスター角とは、自動車の操縦軸となるキングピンの傾きを表す度数のことを表します。
自動車を横から見たとき、前輪のキングピンが垂直より後方に傾いていればプラス、前方に傾いていればマイナスとなります。
最近の一般的な自動車の多くは、前輪駆動となるFF車です。
操舵輪と駆動輪の両方を担っているFF車では、コーナリングでアンダーステア傾向が強くなってしまうため、操舵しやすいようにキャスター角を小さくしています。
キャスター角を大きくすると、直進走行の安定性が高まります。
高速走路などで直線的に長距離移動する際、キャスター角を大きくとることで安定した走りが可能になるのです。
また、発進時の抵抗も少なくなるため、より軽い力で動き出せるという効果も生まれます。
このメリットを最大限に利用しているのがドイツ車です。
メルセデス・ベンツやBMWのような高級セダンは、かなりキャスター角が大きく設定されています。
そのため、アクセルONでのステアリングのブレが少なく、安定した走りを見せてくれます。
では、自転車を想像してみてください。
フロントタイヤは操縦軸よりも前に出ているのが一般的です。
軸となるハンドルの真下にタイヤがある自転車は、バランスを取るだけでかなりの精神力が必要となり使い物になりません。
それをもっと理解しやすくすると一輪車です。
誰もが乗れる代物ではありません。
現に私は乗れません。
次に、キャスターの角度が90度、つまり操縦軸の真下にフロントタイヤがある場合を想像してください。
自動車の重量が、タイヤに全てかかります。
すると、路面に対して大きな負荷がかかるため、走り出し、走行中ともにより多くのパワーを必要とするのです。
大きなキャスター角のイメージは、ハーレー・ダビットソンのようなバイクをイメージすると分かりやすいでしょう。
前輪が操縦軸よりも、大きく前に出ています。
ハーレーは元々、アメリカの広大な土地を長距離移動するために最適な構造として作られたバイク。
長く続く直進走行を、より安定して走るためには、大きなキャスター角が有利となるのです。
自動車の場合も同じで、キャスター角を大きく設定すると長距離の安定した走行感覚が得られます。
キャスター角の大きさが大きければ大きいほど、路面に伝える重量が少なくなるため、軽々と前進していくことができます。
2.キャスター角を大きくすると、直進走行に強くなるのはなぜ?
プラスキャスターで、キャスター角が大きい場合、車体の重量は車軸より後方にかかります。
この状態でハンドルを少し動かしても、車体重量の力によってハンドルはすぐにまっすぐの位置に戻ろうとします。
スピンドルに対し反発する力が生まれることで、ハンドルが自然にまっすぐの定位置に定まってくるというわけです。
長時間の直進走行時も、ハンドルがぶれにくく、安定した走りに繋がります。
また、ステアリングが元の場所に戻りやすくなるため、ハンドルの操作性や感覚も向上するというメリットもあるのです。
直進走行中の安定はキャスター角の大きな効果ですが、高速道路での横風などに強いというわけではありません。
横からの風圧に対しては、キャスター角による安定性は発揮されないので、通常通り注意して走行する必要があります。
また、減速時もハンドルの安定性が落ちるので過信しないようにしましょう。
3.キャスター角が大きいことのメリット・デメリット
キャスター角が大きいことのメリットは、前項目でもお話した通り。
•直進走行の安定
•ステアリングの安定
これがメリットとなります。
しかし、キャスター角を大きくすることでデメリットも発生するので、抑えておきましょう。
•曲がりにくい
•小回りが利かない
キャスター角が大きい自動車は、前輪の回転半径が大きくなるので小回りが利きません。
狭い道や、曲がりくねった道路を走行するには少々不便。
特に都会の道路状況では、不便や不都合を感じる可能性がありますのでご注意を。
つまり、キャスター角の角度は大きすぎても、小さすぎても、一般道の走行に影響が出るということになります。
メーカーの定める基準値を超えない範囲で、バランスよく設定することが好ましいと考えます。
実際のところ、キャスター角を初め、自動車の足回りであるホイール・アライメント周辺のカスタムは、一般道の走行では意味を成しません。
レースなど、高速でコーナリングをするような、エキサイティングな走りを追及する人のちためのカスタムであると考えます。
3.キャスター角の左右差
キャスター角の角度に、左右差がある場合ハンドル流れが生じます。
左右の角度に差がある場合、キャスターの角度が小さい方向に流れるもの。
ハンドル流れがあまりにも気になる場合、キャスター角の左右差に注目してみましょう。
基本的に、左右に差がないのが理想です。
しかし、キャスター角に多少の誤差が生じることは珍しくありません。
そのために、メーカー指定の基準値が定められており、その範囲内であれば差があっても良いとする【公差】があります。
4.カスタムとホイール・アライメントの関係
どんな自動車でもキャスター角を自由にカスタムできる、というわけではありません。
一般的な乗用車の場合、調整できてもほんのわずかな角度。
それぞれの自動車により、キャスター角の角度は基準値が定められており、その範囲内での調整は可能です。
しかし、大幅に角度を変えるのは難しいケースも多いことをご理解下さい。
また、キャスター角の角度変更は、調整という枠を超えた難しい作業です。
改造や修正などの域になるので、個人でカスタムするのは難しいと考えましょう。
正しい知識と、設備、また工具が揃っていれば可能ですが、ハードルは高めです。
また、ご自身で自動車のカスタムをしている場合、ホイール・アライメントのバランスが狂いやすいので注意しましょう。
ホイールアライメントとは、自動車のホイール整列の具合を表したもの。
別名、4輪アライメントとも呼ばれます。
•キャンバー角 •キャスター角 •キングピン傾角 •トーイン
•トーアウト