自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
センチュリーとは、トヨタが1967年から生産し続けている最高級セダン。
日本におけるお抱え運転手が運転する国産最高級車の草分け的存在の自動車です。
2018年には、21年ぶりに3代目となる新型センチュリーが発売され話題を呼びました。
そして日産プレジデントとは、1965年に初代モデルが発売され、トヨタのセンチュリーと並ぶ最高級セダンとして知られています。
しかし、残念ながら、2010年10月をもって日産プレジデントとは、生産終了となってしまいました。
自動車業界では事あるごとに、この2つの高級セダンの比較を行ってきました。
その多くはそれぞれのメリットの比較であり、デメリットについては殆ど触れていません。
そこで、2社の最高級セダンのデメリットに着目したうえで、何故センチュリーが存続し、プレジデントが消滅してしまったのかなどについて深く究明・解説します。
1.セダンの定義
セダンの定義は【ドアが4つある3ボックスタイプの自動車】です。
3ボックスとは
★エンジンルーム ★客室
★トランクルーム
この3つで構成される自動車の事をいい、客室とトランクルームが隔絶されていないミニバンや軽自動車と比較されます。
セダンは用途や目的によって様々あり、現在製造されているのは次のタイプです。
➢ボディがコンパクトにまとめられている【コンパクトセダン】 ➢スポーツカー並みのパワートレインを搭載した【スポーツセダン】
➢後部座席の快適さを追求した【高級(コンフォート)セダン】
2.セダンの一般的な評価
セダンは他の車種と比較して、「安全性が高い」、「静かである」、特に後部座席の乗り心地が良いそしてかっこいいなどのメリットがあると評価されています。
•安全性の高さ
セダンのメリットの1つには、安全性が挙げられています。
その理由は、エンジンルームとトランクルームがそれぞれ前後に突き出ている事です。
この構造の為衝突にも強いとされているのです。
新型センチュリーの場合、全長が5,335mmと長い為、乗員は前後いずれからの衝突に対してもその衝撃を受け難い構造になっています。
これと対照的なのが軽自動車で、ボンネットも短くトランクルームも有りません。
従って、外部からの衝撃が直接に伝わるので、危険性も高いとされています。
•静寂性
室内に入り込む騒音は、エンジン音と街中の騒音に大別されます。
街中の騒音は、後輪と路面が接触するトランクルームの下部から最も入りやすいのです。
セダンはトランクルームと客室が仕切られている為、客室への騒音が入りにくくなっています。
これに加え、吸音材や防音材の使用などにより、この静寂性は益々向上して行くのと思われます。
•乗り心地
乗り心地が良いのもセダンの大きな特徴の1つ。
その理由としては、セダンはミニバンなどと比べて重心が低い為、コーナーで車体が振られる幅が少ないからです。
セダンは、後部座席に座る人の為にあるといわれるくらい、後部座席の乗り心地に力を入れています。
•デザイン性
外観や見た目のカッコよさもセダンの魅力の1つです。
しかし、このデザイン性の良さはセダン愛好家にとっては最高ですが、万人受けするものではなく、一部ではダサイと評される場合もあります。
3.高級級セダンの歴史
セダンの語源はラテン語の腰かける事を意味する【sedeo・sedo】からきているといわれます。
17世紀頃の南イタリヤに【セダンチェア】と呼ばれる箱型の乗物が出現しました。
日本の江戸時代に使われていた【駕籠(かご)】によく似た乗物で、これがセダンの始まりといわれています。
過去に遡ってみれば、日本の各自動車メーカーはこぞって法人向け高級セダンを製造した時代がありました。
これこそが各社のステータスシンボルであるとして誇示し、トヨタと日産以外にも高級セダンを製造したのは三菱とマツダです。
❏三菱デボネア
東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)に発売が開始された三菱自動車製の高級セダン。
1986年にフルモデルチェンジされるまでの22年間に亘り、基本設計やデザインを殆ど変更せずに製造され続けた珍しい例です。
それ故走るシーラカンスとも呼ばれましたが、残念ながら1999年に販売終了となりました。
❏マツダロードペーサー
このモデルはGMの中型クラスのボディに13B型ロータリーエンジンを搭載したもの。
1975年に発売され、日本においては大型セダンとして十分通用するものでましたが、早くも1979年には販売を終了した短命の高級セダンでした。
4.日産プレジデントのデメリットと生産終了になった背景
プレジデントは1965年に誕生してから、主に法人向け、とり訳ハイヤー向けの大型自動車として知られてきました。
当時の佐藤栄作首相の公用車としても採用された事で知られています。
ライバルのトヨタ・センチュリーが2年後の1967年の発売であった事もあり、販売台数はセンチュリーの2倍を記録した事もあったほどです。
1968年には、警視庁第8方面交通機動隊のパトロールカーとして納入され、中央自動車道の速度違反取締車としても活躍した事もありました。
国内においては、公用車や社用車として使用され、まさに英語で「大統領」や「社長」を意味するプレジデントという名にふさわしい乗り方をされた高級セダンです。
日産のプレジデントは、1980年代後半から輸出を始めたり、スローペースではありますが、モデルチェンジを繰り返してきました。
しかし、燃費がとてつもなく悪く、ハイオク使用で6.33km/L。
これでもかというように高級な素材・部品を使用しました。
スクラッチシールドといわれる高品質塗装により中塗りを2度繰り返し、塗装にも贅を尽くしています。
石跳ねなどの車体のキズを簡単に防ぐどころか、多少の擦りキズなどは時間の経過とともに自ら修復するほどの塗装でした。
4代目の販売価格は903万円以上に設しましたが、2009年にはたった63台の販売にとどまりました。
2010年9月施行の衝突安全基準に適応せず、販売台数も低迷していた為、基準対応を断念したのが生産終了の実情だといわれています。
5.センチュリーのデメリット
センチュリーが初めて登場したのは1967年。
この年は、トヨタの創業者である豊田佐吉氏の生誕100周年であり、その事から100年=センチュリーと名付けられたものです。
2代目の先代型は1997年そして3代目の新型が2018年6月に発売されました。
三菱デボネア、マツダのロードペーサーそして日産のプレジデントが次々と姿を消して行きました。
こうして、現在でも残っている高級セダンはトヨタセンチュリーだけとなってしまったのです。
センチュリーの3代目モデルはさすがに20年ぶりのモデルチェンジとあって、安全装置も充実し、先代では未整備であった先進安全技術【Toyota Safety Sense】も標準装備されました。
2代目までは、エアバッグ程度の基本装備しかなかったのですが、今回のモデルチェンジによって安全面は大きく改善されました。
しかし、先代モデルに比べていくつかのデメリットも見られます。
❏夜間歩行者検知の未対応
夜間の歩行者検知が未対応のままになっているのが残念な欠点です。
これは、2度に亘りモデルチェンジをしたものの元々のレクサスLSプラトフォームの設計年次が原因と思われます。
❏静寂性の減少
次にデメリットとして挙げられるのが、静寂性の減少です。
新型センチュリーはハイブリッド仕様になっているので、モーター走行だけの領域 では圧倒的に静寂性は確保されています。
しかし、今回使用のV8エンジンは2代目のV12エンジンよりも静寂性で劣るのです。
❏5人目が乗ると狭苦しい
後部座席は基本定員を2人とした独立シート形式。
3人乗車する場合は、センターコンソールを跳ね上げます。
このようにして後部座席に3人乗ると狭苦しく感じるとともに、高級感が一挙に薄れてしまう事になります。
❏新型の販売価格が高すぎる
先代センチュリーの価格は1,253万円、3代目は1,960万円と約700万円の値上がりです。
1回のフルモデルチェンジでこれほど値上げする例は余り見た事ありません。
新型センチュリーのプラットフォームは先代レクサスLSのお下がりで作られています。
モデルチェンジに伴いハイブリッド仕様になり、緊急自動ブレーキを作動させる新たな装置を装着しました。
しかし、これらが一挙に700万円の値上げの理由とは思えません。
関係者によれば、「開発や生産コストが高くなり、生産台数の違いも影響している」とのことです。
百歩譲ったとしても、1,500~1,600万円程度が妥当な価格と考えられます。
先代センチュリーの販売目標は1ヶ月当たり200台であったのが、新型の販売目標は月50台です。
センチュリーは基本的に国内専用自動車なので、新型センチュリーの世界生産台数も同数という事になります。
結局はコストパーフォーマンスの悪さが大幅な価格上昇の原因であると考えざるをえません。
初代・先代が20年続いた事を考えると、今回の新型が果たして何年続くのか、いささか心配になってくるところです。
❏都市伝説【センチュリーは一般ユーザーには売らない】
これは飽くまでも都市伝説であり、決してそんな事はないのですが、一般のユーザーが購入しにくい雰囲気である事は間違いありません。
6.センチュリーとプレジデントの共通のデメリット
センチュリーとプレジデントにはそれぞれデメリットがありますが、最高級セダンにはいくつかの共通したデメリットがあります。
➢スペース効率の悪さ
3ボックスのうち、エンジンルームと客室を狭くする事はできませんが、トランクルームにあれほどのスペースを割く必要があるのかが問われるところです。
次に、頭上スペースが狭い事です。
軽自動車やミニバンの方が室内高に余裕が見られます。
➢乗車したままでトランクルームの荷物を取り出せない
客室とトランクルームが隔絶されている為、走行中にトランクルームの荷物が必要になった時には、自動車を止めて荷を取り出さなければなりません。
➢家族用には不向き
トランクの荷物の長さや高さが制限される為、荷物は多くを積めません。
ショッピングセンターなどに買物に行っても、購入した小さな家具や家電がトランクルームに入らない場合もあります。
元々社長や重役の手荷物用なので、家具・家電を積み込む設計にはなっていないからです。
➢燃費とガソリン代
最近のセダンは燃費がかなり改善されているので、他車と比べてそれほど燃費が悪い感じはありません。
今回のハイブリッド仕様で公表されている走行燃費は13.6kmです。
しかし、以前はレギュラーガソリン使用であったのが、今回のハイブリッドへのモデルチェンジに伴いハイオク仕様になりました。
ハイオクなのでガソリン代は当然高くつきます。
➢シートアレンジができない
ファミリーカーとしても重宝されているミニバンは、シートアレンジが簡単です。
これによりベビーカーをそのまま車内に入れる事もでき、大きな荷物も入れられます。
ミニバンは3列シートの利点を上手く活用することで、ボディサイズや重量の不利をカバーできています。
これにくらべて高級セダンはシートアレンジもできず、ベビーカーを入れるなんてとてもムリです。
➢レジャーには向いていない
高級セダンには大きなレジャー用の荷物を乗せられない、又シートアレンジによって追加の人数を乗せる事もできない。
従ってもちろんレジャーには向いていません。
オーナーがセンチュリーで山に行きバーべキューをしたいといってもムリ。
山登りや曲がりくねった道なども大変そうです。
➢小回りが利かない
図体が大きい為、小回りが利かないのが難点。
行く先が都会の道幅の広い道路ばかりとは限らず、道幅の狭い裏通りなどには入り込めません。
➢維持費が高い
高級セダンはシロウトではなかなか整備も難しいので、整備工場に全てを任せるしかありません。
その為、一般乗用車に比べ部品交換・整備の費用がかかります。
➢オーナーのプライドが傷つけられる
自分が雇われ運転手と間違われる事により、オーナーとしてのプライドが傷つけられます。
1人で運転している時もそうですが、特に後部座席に人を乗せている場合、表の人はどう思うのか?
運転している人がその自動車のオーナーとは思わず、お抱え運転手と思ってしまいます。
センチュリーは自分で運転する自動車ではなく、後部座席に乗る車。
高級セダンはお抱え運転手が社長や役員を乗せるショーファードリブンカーです。
せっかく高級で高価なセダンを購入してもプライド傷つけられてしまいす。
やはり、高級セダンは一般向けではないと思われます。
まとめ 最高級セダンは今後どうなるのか
結局、日産プレジデントは消滅し、トヨタのセンチュリーのみが残りました。
高級セダンは、企業の社長や役員、あるいは公用車としてのステータスそのものは維持しているものの、所詮一般受けしないのは事実です。
センチュリーはモデルチェンジ後、販売目標台数も200台から4分の1の50台に下げられています。
アメリカ発のZEV規制の波に乗り、世界の趨勢はEV一色という状況です。
日本では人気のハイブリッド自動車も、ZEV規制下ではもはやエコカーとは認められていません。
トヨタクラウンクラスがハイブリッドから進化してEV仕様になった時、最高級セダンであるセンチュリーは無用の長物となるでしょう。
■こちらの記事も合わせてどうぞ!!■
クルマに関する豆知識や旬な情報をお伝えする「クルマの基礎知識」