自動運転システムをウリ文句に、2016年8月24日に登場した新型セレナ。
ミニバンの購入を検討している方の中には、新しいセレナが気になっている方も多いことでしょう。
新型セレナの機能で気になるのは、やはり自動運転システム「プロパイロット」ですよね。
この機能の注目度は高く、セレナを購入された方の約7割がプロパイロットを装備したグレードを選択しています。
ただ気になるのは、自動運転システムの実態。
プロパイロットの“自動運転”とは、実際どのような機能なのでしょうか。
今回は、プロパイロットの性能や技術に詳しく迫ってみることにしましょう。
■セレナのプロパイロットができること
本文のはじめに、読者のみなさんにお伝えしたいことがあります。
新型セレナのプロパイロットは、正確にいうと自動運転システムではありません。
プロパイロットはあくまで「運転支援システム」であり、自動で運転してくれる機能ではないのです。
このことは、日産のホームページにも(小さい文字で)記載されています。
とはいえ、ガッカリするのは早計です。
セレナのプロパイロットが実用性の高い機能であることは事実。
ここで、この運転支援システムがどのような役割を果たす機能なのかを見てみましょう。
ごく簡潔に述べると、セレナのプロパイロットは「加速・制動・操舵」のうち、複数の操作を行うことができるシステムです。
…と、これだけでは何のことかわからないですね。
より具体的にいうと、プロパイロットは「車線の中央をキープしながら、前方車両に追従して車を走らせることのできるシステム」です。
プロパイロットが前方車両の停車を察知すると、セレナも自動的に減速して停車します。
停車時間が3秒以内である場合は、前方車両の発進を追ってセレナも発進。
3秒以上停車した場合も、アクセルを軽く踏むか「RES」ボタンを押すことで、発進と前方車両の追従が再開します。
これに加えて、カーブに差し掛かると自動でハンドルを切ってくれるところが、プロパイロットのスゴいポイント。
「走る・曲がる・止まる」の3つを支援することで、長距離クルーズにともなう疲労を軽減してくれます。
さらに、この機能は渋滞時にも有効。
家族旅行や仕事で長距離を運転する人には、かなり嬉しい機能といえそうです。
・プロパイロットの使用条件
前述のとおり、プロパイロットは運転にともなう疲労を軽減してくれる支援システムです。
ただ、どんな場面でもこの機能の恩恵を受けることができる、というわけではありません。
残念ながら、プロパイロットの機能を活かせる場面は限られています。
基本的にプロパイロットは、高速道路や自動車専用道路で利用する機能だと思ってください。
巡航速度が変わりやすく、かつ交差点の多い市街地では、この機能の性能を十分に発揮できません。
また、積雪で車線が隠れている場合や、西日でシステムが周囲の情報を読み取れない場合は、プロパイロットが機能しなくなります。
こうした場面では自動的にプロパイロットがオフになるので、ドライバー自身で車を制御しなければなりません。
このほか、ハンドルから手を離した状態で、プロパイロットを利用することも不可能です。
プロパイロット使用中にハンドルから手を離すと、警告音が鳴った後で運転支援がキャンセルされます。
プロパイロットは、あくまで運転を補助する機能。
事故が発生した場合に責任を負うのは、ドライバー自身にほかなりません。
この点を意識してもらえるように、手放しでの運転が禁止されているのです。
■どんな技術が使われているの?
前節でご紹介したように、プロパイロットは自動運転に準ずる高い機能を有しています。
驚くべきは、この機能の核となっているのが1台の単眼カメラであるという事実。
プロパイロットの機能は、たった1台のカメラから得た情報を軸として作動するのです。
ここで、「ミリ波レーダーとか、たくさんのカメラが使われているんじゃないの?」という車好きの声が聞こえてきそうですね。
しかし、答えはNO。
新型セレナには、従来のブレーキ支援システムに採用されていたミリ波レーダーは備わっていません。
データを取得するためのカメラもあくまで1台。
セレナのプロパイロットは、実にシンプルなシステム構成となっているのです。
・カギを握るモービルアイ社の単眼カメラ
プロパイロットの核となっている単眼カメラは、イスラエルのモービルアイ社が製造しています。
モービルアイは、運転支援システムの世界的トップシェアを握っているメーカー。
そのシェア率は、なんと80%に達しています。
ほぼ全ての主要自動車メーカーが、モービルアイのシステムを採用していると考えてよいでしょう。
モービルアイ社の製品で特に注目されているのが、先ほどから名前の出ている単眼カメラ。
多くの生き物は2つの目で対象物との距離を測りますが、単眼カメラは文字どおり1つの目で距離を測定できます。
さらにモービルアイ社の単眼カメラは、車線や前方車両だけでなく、歩行者を識別することも可能。
小さなカメラ1台で、車の安全性を飛躍的に高めることができます。
ちなみに、セレナのプロパイロット搭載モデルは、約290万円と割安。
もしミリ波レーダーや複数のカメラを採用していたら、プロパイロット搭載モデルはもっと高額になっていたかもしれません。
システムの核を高性能カメラ1台に絞ったからこそ、大衆車にふさわしい価格を実現できたのです。
■プロパイロットは「レベル2」
新型セレナのプロパイロットは、自動運転システムと呼べるレベルには達していません。
しかし、自動運転技術の今後を占ううえで、重要な意味をもつシステムであることは確かです。
自動運転技術の難易度が、4段階に分かれていることをご存知でしょうか。
米運輸省および日本政府は、自動運転技術の難易度をレベル分けしています。
従来のクルーズコントロールや自動ブレーキが「レベル1」、完全な自動運転が「レベル4」といった具合です。
新型セレナは、日本車として初めて「レベル2」を達成。
ちなみにレベル2と認められるには、「加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う」という条件を満たす必要があります。
セレナがこの条件を満たしていることは、先にも述べたとおり。
レベル2の達成を機に、今後は同等以上のシステムを備えたモデルが数多く登場することでしょう。
・自動運転技術の未来
新型セレナは自動運転技術のレベル2を達成しましたが、レベル3の達成はまだまだ先の話かもしれません。
レベル3達成の条件は、「加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する」という厳しいもの。
ここまでいくと、「ほぼ自動運転」といっていいレベルですよね。
ちなみに、レベル3のシステムが事故を起こした場合、責任を負うのはシステム自身です。
このため法整備が整わない限りは、レベル3の実用は難しいのが現状といえます。
自動運転先進国であるアメリカでは、レベル3の実用に向けた法整備を訴える動きが活発化しているご様子。
他方、ご存知のとおり、日本は法整備に対する動きの鈍い国です。
レベル3の技術が完成しても、実際に公道で使用できるようになるまでに時間がかかると考えられます。
こうした事情を加味すると、しばらくはレベル2の技術をブラッシュアップする期間が続きそうですね。
そのスタート地点にある技術として、セレナのプロパイロットは重要な役割を果たす存在といえそうです。
■まとめ
本記事を読んで、セレナのプロパイロットにどんな印象を抱いたでしょうか。
「期待はずれ」と感じた方もいれば、「意外とスゴいな」と思った方もいることでしょう。
ちなみに、セレナ購入者のプロパイロットに対する評価は上々です。
先進の運転支援システムに興味があるなら、日産のディーラーで新型セレナに触れてみてはいかがでしょうか。