自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
スズキのハイトワゴンである「ワゴンR」がモデルチェンジしました。
ワゴンRと言えばつい数年前まで、軽自動車の販売台数No.1を誇る車種で、ダイハツから、同じコンセプトのライバル車ムーヴが発売されるほど売れに売れていたモデルです。
しかし、近年ではホンダのN-BOX、ダイハツのタント、スズキのスペーシアなどの、ワゴンRが属する「ハイトワゴン」よりもさらに室内空間を高くしすることにより、居住空間が広くし、さらに使い勝手を上げるために両側にスライドドアを採用した「スーパーハイトワゴン」と呼ばれるカテゴリに人気が集まっています。
そのため、2015年の販売台数ランキングでは6位、2016年には9位にまで落ちてしまいました。
しかし、今回もワゴンRは初代から続く、男性向けというコンセプトを大きく変えずにモデルチェンジしてきたのです。
頑なにキープコンセプトを守ったスズキの戦略はどういったものなのでしょうか。
■ワゴンRヒットの歴史
ワゴンRは1993年に初代が発売されました。 キャッチコピーは「クルマよりも楽しいクルマ。」です。
そこには、とにかく車を使って遊んでもらいたい車を道具にしてほしいという気持ちがこもっています。
ワゴンRは「男性にも受ける軽自動車を作る」というコンセプトのもと、それまで乗用車タイプかワンボックスタイプしかなかった中で、車高を高く取り居住スペースを広くするというトールワゴンタイプのはじめの1台となりました。
当初は、男性向けに企画されたワゴンRでしたが、それ自身が軽自動車を道具として使うというコンセプトであったため、それが逆にヒットの要因となり、ターゲットの男性のみならず女性をも巻き込んだヒット商品となりました。
その後、ダイハツからムーヴが発売されるなど、トールワゴンタイプのカテゴリーは人気カテゴリーとなっていったのです。
■スーパーハイトワゴンの台頭
スーパーハイトワゴンは、ワゴンRなどのハイトワゴンの車内高を更に上げて、走行性能を多少犠牲にしても、車内スペースを最優先としたものです。 とくに、両側スライドドアを装備して、片側センターピラーレスのダイハツ・タントなどは、車内に直接そのままベビーカーをのせられることをアピールポイントとしています。
また、ライバルのホンダ・N-BOXやスズキ・スペーシアも車室高を高く取ることによって、社内で子供の着替えができるなどをアピールしています。
つまり、これらのスーパーハイトワゴンの軽自動車は、男性に向けて作られたワゴンRとはまったく逆で、家族がある家庭・子供を持っている女性をターゲットにしているわけです。
現在の軽自動車の販売ランキングを見ると、スーパーハイトワゴン系がトップで、それに続くのはスズキ・アルト、ダイハツ・ミラの乗用車タイプ、ダイハツ・ムーヴ、日産・デイズ、スズキ・ワゴンRなどのハイトワゴン系が続く形になっています。
ワゴンRなどのハイトワゴンは、室内空間を最大限に重要視するスーパーハイトワゴンと、小さくて小回りが利き操縦性能が良い乗用車タイプに挟まれて、苦戦している感じが否めません。
しかし、スーパーハイトワゴンでは大きくて重いけど、乗用車タイプでは小さいのでほどほど広いハイトワゴンが欲しいというニーズは必ずあるはずです。
■6代目ワゴンRの注目ポイントは?
では、6代目のワゴンRモデルチェンジにあたってスズキがワゴンRに込めた注目のポイントはいったいどのようなものでしょうか。
・新型シャーシと軽量化 新型のワゴンRは、HEARTECT(ハーテクト)という新しいシャーシを採用しています。
このシャーシは新型モデルに順次採用されている物で、軽量化とプラットフォームの共有による効率化を実現しています。
この新型シャーシはスズキがフォルクスワーゲンと提携する予定だった頃、鈴木修氏がフォルクスワーゲンを視察した際に、車種の数に比べてプラットフォームであるシャーシの種類が少ないことに驚いたと言います。
それに影響されて、共通のシャーシを開発することにしたのか、このHEARTECTというプラットフォームは、今後、スズキの車両の多くに採用されることでしょう。
そして、この、HEARTECTの一番のメリットが「軽量化」です。 新型ワゴンRは、旧型と比べて20kgの軽量化を達成しています。
例えば、ダイハツ・タントでは、重量が930kg〜1040kgなのに対して、770kg〜820kgとワゴンRの一番重いグレードと、タントの一番軽いグレードでも100kg以上の違いがあります。
そのため、ワゴンRではターボエンジンを使わずとも必要十分な動力性能を得られることができ、更に燃費性能も運転性能も向上できるというわけです。
・異なる3つのエクステリアデザインを準備 ワゴンRには、3種類のエクステリアデザインを用意されています。
先代までは、標準モデルに対してスティングレーという男性向けなエクステリアデザインの設定がありましたが、今回はそれに加えて更に1つのエクステリアデザインを加えています。
標準タイプは、四角形をモチーフにしたクリーンなデザインで女性にも違和感なく乗ることができるデザインでボディーカラーもポップな黄色がイメージカラーです。
また、新しく加わったハイブリッド FZは、国産ミニバンのような2段ヘッドランプを備えていて、力強いミニバンが好きな男性にうけそうです。
スティングレーは、縦型のヘッドライトデザインで、いかにもアメ車っぽいそのデザインは好き嫌いの好みが分かれるかもしれませんが、このデザインが好きな人にとってはたまらないというものになるでしょう。
いずれも、新型のワゴンRのエクステリアデザインは、これまでと違い、思い切った変更となっています。
それは、販売台数No.1の地位から陥落してしまったことにより、思い切ったデザイン変更が可能だったという背景もあるでしょう。
また、初代ワゴンRの商品企画が、男性向けの軽自動車と言うコンセプトであったことを考えると、この新型アルトもコンセプトを貫いたのです。
・先進装備が充実 新型のワゴンRは、先進装備が充実しているのも特徴です。
発電機をモーターの代わりに利用するマイルドハイブリッドシステムは、モーターで発進時のトルク不足をサポートします。
また、セイフティパッケージを装着すると自動的にヘッドアップディスプレイが装備されます。
何を隠そう、新型のワゴンRは初めて軽自動車にヘッドアップディスプレイを採用したのです。
■ワゴンRの復権なるか?
このように、新型ワゴンRはスズキにとって非常に意欲的な商品だと考えられます。
しかも、当初からのコンセプトを変えずに作り続けることも、いかにもスズキらしいと言えます。 新型ワゴンRを含めて、新型アルト以降の鈴木の車は大変意欲的で魅力的なクルマが増えてきたように感じます。
今後、スズキがどんな車を出すのか注目していきたいですね。
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