自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
今の世の中、エコカーというだけではユーザーの需要を満たすことができないようで、ここにさらにコンパクトという要素が必要とされています。
これは、エコカー減税によって自動車取得におけるユーザーの負担が減ってきたことに起因しています。
取得による負担が減り、次に減らしていきたいのは維持費です。
燃料補給に必要な経費は、エコカーという時点でかなり削減されています。
減らしたいのは自動車税や重量税です。
乗用車枠でこの2つの維持費を小さくできるコンパクトカーは、現代のオーソドックスともいえるでしょう。
「トヨタ アクア クロスオーバー」、「ホンダ フィットハイブリッド」、「日産 ノートe-power」、「マツダ デミオ」といったあなたがこれから購入しようと考えているコンパクトエコカーの、自動車メーカーが売り込みたいと考えているデータをまとめてみましょう。
比較対象には全車種共通でトヨタ ヴィッツハイブリッドを選択させていただきます。
以下がヴィッツハイブリッドの基本データになりますので参照ください。
グレード ハイブリッドU 燃費率 34.4km/L 排気量 1,500cc+モーター 駆動方式 FF 2WD トランスミッション 電気式無段変速 エンジン最高出力 54kW[74PS]/4,800rpm モーター最高出力 45kW[61PS] エンジン最大トルク 111N/m[11,3kgf/m] 3,000〜4,400rpm モーター最大トルク 169N/m[17,2kgf/m]
乗車定員 5人乗り
1.トヨタ アクア クロスオーバー カタログデータから読み取れる特徴
2017年6月にマイナーチェンジを経て、アクア クロスオーバーは、コンパクトカーというより若干SUVに近いところがあります。
しかし、根本的にグレードSと大きな差がないため、今回はクロスオーバーで見ていきたいと思います。
グレード クロスオーバー 燃費率 34.4km/L 排気量 1,500cc 駆動方式 FF 2WD トランスミッション 電気式無段変速 最高出力 54kW[74PS]/4,800rpm 最大トルク 111N/m[11,3kgf/m] 3,000〜4,400rpm
乗車定員 5人乗り
これがアクア クロスロード(以下アクア)のカタログ上の基本データになります。 これだけを見れば同社ヴィッツハイブリッドと同等でしかありません。
むしろ、ハイブリッドシステムを組み込まれたヴィッツハイブリッドの方が、モータートルクがある分走行性能はありそうです。
あえてアクアを選ぶメリットは、10cm程広い車内空間です。 1,920mmのヴィッツハイブリッドに対し、アクアは2,015mmです。
これは、トランクルームを含まない純粋な居住空間の数値なので、単純に快適な乗り心地が得られるということになります。
同時に直進安定性もアクアに軍配が上がります。 ホイールベース2,510mmのヴィッツハイブリッドに対し、アクアは2,550mmと若干ですが安定性の出る設計となっています。
その代わり、ホイールベースが長くなるということは旋回性能を犠牲にするということになりますので、小回りの利きやすさはヴィッツハイブリッドの勝ちということになります。
ホイールサイズにも違いがあります。 ヴィッツハイブリッドは標準サイズが15インチのところ、アクアは16インチが標準です。
ここでも走行安定性への配慮が伺えます。
アクア クロスオーバーを引き合いに出した理由は、これまでのアクアよりも30mmほど車高が高くなっていることで、乗り降りのしやすさなどが向上しているからです。
アクアを購入したいと相談された場合、資金に余裕があるのであればグレードSではなくこのクロスオーバーをオススメするでしょう。
■アクアの試乗インプレッションはこちらです!■
2.ホンダ フィットハイブリッド カタログデータから読み取れる特徴
まずはフィットハイブリッドの基本データです。
グレード ハイブリッド 燃費率 37.2km/L 排気量 1,500cc+i-DCD 駆動方式 FF 2WD トランスミッション 7速デュアルクラッチトランスミッション エンジン最高出力 81kW[110PS]/6,000rpm モーター最高出力 22kW[29.5PS] エンジン最大トルク 134N/m[13.7kgf/m] 5,000rpm モーター最大トルク 160N/m[16.3kgf/m]
乗車定員 5人乗り
数字的なデータだけ見れば、フィットハイブリッド(以下フィット)はとても好印象を受けます。
しかし、その反面エンジン特性が大きく違うことにお気付きでしょうか。
一番力が出る回転数の違いに注目してください。 最大出力発生時のエンジン回転数で1,200rpm、最大トルク発生時の回転数で600~1,000rpmの違いがあります。
より高回転エンジンだということです。
回転数が増えれば、その分消費燃料も増えてしまいます。
それを補うに充分なモーターパワーを有しているからこそ、燃費率でもヴィッツハイブリッドを上回ることができるのです。
ホイールサイズは標準15インチと同等ですが、高回転型エンジンということでクッション性の高い15インチのチョイスは妥当でしょう。
これが16インチを標準とした時、フィットの持つファミリーカーとしての特性が大きく損なわれるものとなってしまうでしょう。
ホイールベースは2,530mmと、ヴィッツハイブリッドよりも20mm長く設定されていますが、一般走行時に旋回能力を犠牲にしない範囲での設定だといえます。
車内空間の広さは1,935mmとヴィッツハイブリッドと大きく変わりません。
街中よりも遠出をメインに自動車を使用したいのであれば、フィットは選ぶ価値が大いにあるでしょう。
■フィットの試乗インプレッションはこちらです!■
3.日産 ノートe-power カタログデータから読み取れる特徴
今回のラインナップの中で唯一の電気自動車です。
ただでさえ気になる電気自動車ですが、まずは基本データからどの程度までさらけ出しているのか見ていきましょう。
グレード e-power S 燃費率 37.2km/L 排気量 1,200cc+モーター 駆動方式 FF 2WD トランスミッション トランスミッション 発電用エンジン最高出力 58kW[79PS] モーター最高出力 70kW[95PS] 発電用エンジン最大トルク 103N/m[10.5kgf/m] 3,600~5,200rpm モーター最大トルク 254N/m[259kgf/m]
乗車定員 5人乗り
さすがは電気自動車といったところでしょう。
ですが、燃費効率だけを見てみるとこれといって飛躍的アップをしているようには思えません。
問題なのはモーター駆動状態での航続時間であって、燃費効率ではないというのが電気自動車の注意点です。
特に、e-power Sの燃料タンク容量は35Lです。
カタログデータ上ではありますが、燃料満タン状態で1,302km(37.2km/L×35L)の間はしっかりと発電してくれるということになります。
つまり、走行可能距離は1,302km以上のものとなることです。
これは、充電状況と燃料ともに満タン状態であれば、日常走行だけであれば1ヶ月に1度の給油と充電で済んでしまうかのようなデータ値です。
実際に走行してみなければ分かりませんが、電気消費率が少ないのであれば確実に維持費を抑えることが出来るでしょう。
エンジン駆動の自動車と比べて、トータルでの走行性能は明らかに電気自動車のほうが劣って見えます。
しかし、これはモーターのトルク特性の賜物ともいえるのです。
小さな出力で大きな出力と同等の働きをするためには、初期動作時から大きなトルクを発揮する必要があります。 緩やかなトルク曲線を描くエンジンと違い、モーターはいきなり垂直に近い角度でのトルク曲線を描きます。
そのため、モーターサイズも必要以上に大きくする必要がなく、結果的には重量税の削減にもつながるのです。
電気自動車なのに、なぜエンジンが必要なのかと疑問に思うかもしれません。 通常のエンジンでもオルタネーターはついていますが、発電をし続けるためにはオルタネーターを動かし続けなければいけません。
そのため、ON OFFを繰り返しているモーターでは満足な充電が得られないのです。
発電をするためだけのエンジンにしては、1,200ccと若干オーバーサイズのような気もしますが、オルタネーターのサイズがどのようになっているかが気になります。
ホイールサイズは15インチと、乗り手に優しいサイズをチョイスしているのも妥当なところです。
今ひとつエンジン自動車との比較がしづらいですが、今後電気自動車を深く見ていきたいと思います。
■ノートの試乗インプレッションはこちらです!■
4.マツダ デミオ カタログデータから読み取れる特徴
今回ご紹介する自動車の中で、唯一ディーゼルエンジンをラインナップしているのが、このマツダ デミオになります。
また、エコカーのくくりに入れて良いのかも疑問ですが、あえてここではご紹介したいと思います。
基本データは以下の通りです。
グレード 13S XD 燃費率 24.6km/L 26.4km/L 排気量 1,300cc 1,500cc 駆動方式 FF 2WD トランスミッション 6速オートマチックトランスミッション エンジン最高出力 68kW[92PS]/6,000rpm 77kW[105PS]4,000rpm エンジン最大トルク 121N/m[12.6kgf/m] 4,000rpm 250N/m[25.5kgf/m]1,500~2,500rpm
乗車定員 5人乗り
13Sはガソリンエンジン、XDはディーゼルエンジンとなっております。
基本データは前に書いてあるのがガソリンエンジン、後ろがディーゼルエンジンです。
まずは燃費性能ですが、正直良いとは決していえません。
44Lタンクでの燃費率ですので、42Lタンクのヴィッツハイブリッドの34.4kmと比べても明らかに数値が低いです。
しかし、このデミオですがハイブリッドシステム無しでこの数値を出していることを忘れてはいけません。
ヴィッツハイブリッドの車両重量は1,130kgです。
デミオはXDが同じく1,130kg,13Sに至っては1,030kgと100kgも軽いのです。
このため、基本的な走行抵抗が小さくなり、1,300ccという小排気量のガソリンエンジンであっても満足のいく走行性能を発揮してくれそうです。
また、1,300ccということもあってトランスミッションのギヤ比はローギヤードなものを設定されています。
非力なエンジンであっても、力強い走行性能の確保には必須です。
ホイールベースは2,570mmと、ヴィッツハイブリッドよりも60mmも長い設定です。
中回転域を得意としているエンジンのため、そこから一踏みした場合の安定性の確保のためでしょう。
15インチホイールのチョイスは、正直なところ物足りなさを感じそうです。 中回転エンジンとローギヤードの特性を活かすには、16インチが設定されていてもおかしくありません。
コストカットとファミリーベースでのホイールチョイスが伺えます。
とりあえずですが、エコカー減税対象車ですので自動車取得税と重量税は13S XDともに免税となっています。
車内は1,805mmと、1,920mmのヴィッツハイブリッドに比べ明らかに狭く感じると思います。
しかし、全長は3,945mmのヴィッツハイブリッドよりも115mm長く設定されています。
4,060mmの全長があるのも関わらず、車内は1,805mmしか確保されていないのは、中回転域から一踏みした場合の安全性確保のためのパッシブセーフティーの観点から設定されていると考えられます。
つまり、運転してちょっと楽しい自動車ということです。
低回転低速度での運転は、安全ではありますが面白みに欠けます。 このデミオは、あえて排気量を小さくして、回転域を意図的に上げているため必然的にアクセルを踏み込む量が増えます。 その分エンジン音は他車に比べ大きめになるものの、排気量自体が小さいため速度は控えめ。
しかし、ローギヤードのトランスミッションがレスポンスの良い走りを提供してくれるといった構図が想像できます。
確かに今回ご紹介している自動車の中では異質です。
燃費も確実に悪いです。
しかし、唯一の燃料走行のみの自動車で、20km/Lを超えている燃費性能は決して悪い数値だとはいえません。
ハイブリッドカーや電気自動車がもてはやされている今、あえて燃料走行のみの自動車を選ぶのも面白いかもしれません。
■デミオの試乗インプレッションはこちらです!■
5.まとめ どのメーカーも魅力的な数字を出している
ここまで、カタログに掲載されている基本データを少し見てきました。
ヴィッツハイブリッドを比較対象としてきましたが、良くも悪くもオーソドックスな数値を挙げているのがヴィッツハイブリッドだったというだけです。
同じトヨタの自動車であっても、ちょっとした変化で乗り味を変えてきています。
自動車メーカーが変われば、より一層その変化は大きくなるでしょう。
あなたが好きな自動車メーカーだけを乗り続けるのは決して悪くはありません。
しかし、エコカーという新しい分野において、狭い視野で自動車を選ぶのはオススメできません。
できる限り、実際に色々な自動車に乗ってみて選ぶべきだといえます。
毛嫌いしていたメーカーの自動車が、妙にあなたにマッチするかもしれないのがエコカーという新たな分野です。
今回は4車種のデータを見ていきましたが、それぞれを今後実際に運転してインプレッションしていきたいと思います。
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