自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
ブレーキは自動車にとって最も重要な装置。
もちろん、走らせる為のエンジン・ステアリング・タイヤなども大事には違いありませんが、自動車が止まらなかったらどうなるのでしょう。
考えただけでもゾッとします。
ブレーキに関連するものとしては、ブレーキパッドがありますが、もう1つ大事なもの、それがブレーキフルードです。
ブレーキオイルと呼ばれることもありますが、正式名称はブレーキフルードです。
1.ブレーキは2種類ある
ブレーキフルードのことをより理解する為にも、まずはブレーキそのものや性質や役割などについて知っておきましょう。
❏フットブレーキ
自動車を減速させたり、駐停車させたりする為に常用するブレーキのこと。
一般的には運転席の足元、アクセルぺダルの左側にある。
この他、アクセル・ハンドルと組み合わせて、左右への旋回やスピードの調整をしたりするのに使用される。
安全運転と危険回避の為には無くてはならない役割です。
フットブレーキはペダルを踏むと、車の後部のブレーキランプが点灯するので、後続車に減速していることを伝えます。
フットブレーキの仕組みは車種によっても異なるので、ごく一般的な普通自動車で採用されている前輪:ディスクブレーキ、後輪:ドラムブレーキのタイプを例に説明します。
❏ドラムブレーキ
車輪の軸と一緒に回転するドラムと呼ばれる円筒形のパーツの内側から、ブレーキシューと呼ばれるパーツを押し当てることによって減速するブレーキ。
ブレーキシューを油圧ピストンの力で押し付けることによって機能する仕組みなっている。
このドラム回転が、ブレーキシューを押し広げる助けとなり、より大きな力がブレーキライニングに加わります。
❏ディスクブレーキ
名前の通り、円盤状のブレーキのこと。
同じく、車輪の軸と一緒に回転するディスクと呼ばれる円盤系のパーツを外側から、ブレーキバッドよ呼ばれるパーツに挟み込むことによって減速するブレーキのこと。
ドラムブレーキと同様油圧によってペダルからパッドに力が伝わる仕組みになっています。
❏エンジンブレーキ
エンジンの抵抗を利用したブレーキのこと。
ギアをシフトしてアクセルを踏むと車は加速します。
そして、アクセルを離すとブレーキを踏まなくても自然に減速します。
この減速のことをエンジンブレーキといいます。
自動車は、車体を動かす為の動力をエンジンから車軸に伝え、それによってタイヤを回転させることによって走行します。
走行中にアクセルペダルから足を離すと、タイヤの回転力のみでエンジンが動いている状態になり、その負荷によって減速するのです。
また、ギアをシフトダウンすることによって、エンジンブレーキがより強くかかることになります。
エンジンブレーキによって減速することで、フットブレーキの使用も短縮でき、頻度も減ることによってフットブレーキの消耗を軽減できるのです。
2.エンジンブレーキとフットブレーキの上手な使い分け
山道などの長い下り坂を下るときは、フットブレーキを踏まずに、ギアをシフトダウンしたうえでエンジンブレーキを使用するのがコツ。
高速道路では、走行速度が上がる為、エンジンブレーキが役に立ちます。
高速走行中には減速・停車までには時間がかかるからです。
フットブレーキを多用すると、ブレーキランプが頻繁に点灯。
それに伴って、後続車の減速も誘発し、これが結果的に渋滞の原因になってしまうことも。
一般道においては、信号の手前に来たとき、もうすぐ赤になりそうなことが予測できます。
このとき、信号の手前でブレーキを踏むよりも、事前にエンジンブレーキによって減速しておけば、フットブレーキを踏まなくて済みます。
よって、フットブレーキを踏むのと比べて、自動車の流れも円滑になり渋滞の原因が少しでも減ることになることは実証済み。
このように、エンジンブレーキをより多用することによって、できる限りフットブレーキの使用を少なくすることがフットブレーキの消耗を減らします。
しかし、だからといって、危険だと判断したときは迷わずフットブレーキを踏まなければならないことはいうまでもありません。
エンジンブレーキとフットブレーキの2つを上手に使い分けて、安全でスムーズな運転を心がけて下さい。
ブレーキの役割やその大切さについて十分理解できたと思うので、これからブレーキフルードについて解説します。
ブレーキフルードは別名ブレーキ液やブレーキオイルとも呼ばれ、見た目は蜂蜜を水で少し薄めたような薄い黄色をしている液体。
しかし、このフルードとは単純にオイルのことではないのです。
オイルとは異なり、圧力を伝える役目のある液体のことをフルードといいます。
例えば
➢パワステ・フルード ➢ATF(オートマティック・トランスミッション・フルード
➢ブレーキフルード
などがあります。
では、圧力をかけるとは何を意味するのでしょうか?
1.ブレーキを踏む 2.ブレーキに直結している円柱内のブレーキフル-ドに圧力がかかる 3.キャリパピストンが押される 4.キャリパピストンがブレーキディスクを押す
5.ブレーキが効く
ブレーキとは、自動車が前後に進む力を摩擦熱に変化させるシステムのことなのです。
3.このブレーキフルードが水であったらどうなるでしょう。
ブレーキフルードとディスクの間に発生する熱は、瞬間的に200℃を上回ります。
水は100℃で沸騰するので、ブレーキフルードが水であったならば、間違いなく沸騰することになります。
水は沸騰すると泡が出ます。
この泡があると力が伝わらなくなるのです。
空気のクッションが液体の内部に散乱している状態になり、ブレーキペダルを踏んだ力が先へ進むにつれて吸収され、結果的に圧力が下がってしまいます。
そして、踏んでもブレーキが効かない状態になります。
円柱内の液体は沸騰しにくいものでなければなりません。
従って、水では絶対にダメなのです。
ブレーキフルードは沸騰しにくいのですが、必ずしも沸騰しない訳ではありません。
何らかの理由で、万が一ブレーキフルードが沸騰してしまうとベーパーロック現象が生じてしまいます。
最近の自動車は性能が良くなってきているので、めったにベーパーロック現象が生じるようなことはありません。
しかし、高速道でブレーキを踏み続けたり、坂道を延々とブレーキを踏みながら下がったりするとこの現象が起こる可能性があります。
更に、定期的にブレーキフルードを交換していないと、沸点が下がりこのベーパーロック現象が起こる原因になるので注意が必要です。
4. ベーパーロック現象が起きてしまったときは
走行を直ちに止めましょう。
十分にブレーキが冷えてから、停車した状態でブレーキペダルを何回か踏み、ペダルの踏み具合を確認します。
もしある程度踏みごたえがありブレーキも効く状態になれば、ゆっくりとしたスピードで近くのガソリンスタンドか整備工場でエア抜きをして貰って下さい。
いつまでもスカスカの状態が続くようであれば、JAFなどに頼みレッカー移動して下さい。
そのままで走るのはとても危険ですから、絶対にやってはいけません!
5.ブレーキフルードの種類
ブレーキフルードを分ける為のポイントは沸点です。
沸点とは沸騰する温度のことで、DOT(ドット)と呼ばれています。
一般的には
•DOT3 •DOT4
•DOT5
があり、数字が上がるほど沸点が高くなります。
現在、普通車にはDOT3かDOT4のどちらかが使用されていが、購入する前に取扱説明書をみて確かめましょう。
DOT5は一部のレースカーに使用されています。
DOT5は大変性能に優れている反面、すぐに劣化してしまい沸点が下がってしまう欠点があるのです。
レースの場合は短期間でメンテナンスを行い、そのたびにブレーキフルードを劣化する前に交換するので問題がないのです。
6.ブレーキフルードは何故交換する必要があるのでしょうか?
それは、ブレーキフルードの沸点が自然に下がってしまうから。
それでは、何故沸点が自然に下がってしまうのでしょうか。
それは、ブレーキフルードの中に含まれている成分が原因で、フルードの中には水分を吸収してしまう成分が含まれています。
つまり、水分を吸収する為にどんどんと沸点が下がってしまうのです。
沸点がどの位下がったのかを見て判断することはできませんが、フルードの色である程度判断することはできます。
7.ブレーキフルードの交換時期
ブレーキフルードは車検の2年毎に交換するのが基本です。
ブレーキフルードには吸湿性があり、運転しなくても劣化してきます。
従って、車検の際には強制的に交換することになるのです。
もちろん、2年以内であっても、走行距離や運転の仕方にもより劣化状態は異なってきます。
以下の要領でフルードの劣化判断を行った結果で判断するとよいでしょう。、
❏リザーバータンクの量で判断
ボンネットを開けてエンジンルームの奥を見ると、白い半透明の容器が見えます。
これが、リザーバータンクといってブレーキフルードを溜めておくパーツです。
タンクの側面に「MIN」または「MAX」と表記されており、このレベル内にあればOKです。
ブレーキフルードを交換するときは、ブレーキを踏んでいない状態で「MAX」の位置まで注入する。
この後、1~2週間で減っていたら問題です。
フルードが漏れている可能性が高いので、すぐに交換するか補充するかの必要があります。
同時に、フルードが短期間に減ってしまった原因を追究する必要があり、常にリザーバータンクの量を確認するように習慣付けることが大事です。
❏ブレーキフルードの色で判断
交換したてのときは、ほぼ透明の状態です。
劣化すると透明→黄色→茶色→黒色 と変化します。
黄色の状態までは許容範囲ですが、茶色になれば交換時期です。
黒色になっていれば危険状態といえます。
8.交換に必要な工具・ツール
ブレーキフルードを交換する為には、幾つかの工具やツールが必要になります。
近くのDIYショップで店員さんとも相談のうえ、選んで下さい。
•ブレーキフルードキャッチタンク
ブレーキキャリパーに付いているブリーダープラグから、古いブレーキフルードを排出させて溜めるタンク。
専用のタンクが販売されているが、空のペットボトルで代用することもできます。
•フレアナットレンチ
ブリーダープラグを緩める工具。
ブリーダープラグのサイズは主に、8mmまたは10mmが使用されています。
•ホース
ブレーキフルードを排出されるのに使用するので耐油性のものが必要です。
専用のワンマンブリーダーを購入すれば、ホースはセットで付いてきます。
•注射器
リザーバータンクの古いブレーキフルードを抜き取る為に使用します。
9.ブレーキフルードの交換方法とその手順
1.ジャッキアップをしてタイヤを外す。
自動車のジャッキアップ作業には少々危険を伴うことがあるので、下記の事に注意しながら慎重に行ってください。
1-1.平坦な場所で行う(傾斜のある場所で作業すると、ジャッキが外れることがあり)
1-2.ジャッキアップ作業中であることを周知させる(三角の反射板などを置く)
1-3.エンジンは必ず停止する。
1-4.自動車の下に潜る場合は自動車の下にタイヤを入れる(これは絶対に忘れないで下さい!)
2.ブレーキフルードのリザーバータンクから古いフルードを全部抜き取る。
3.新しいブレーキフルードを注入する。
4.ブリーダープラグにメガネレンチを取り付けてホースをブリーダープラグに差込む。
5.ブリーダープラグを緩めるとブレーキフルードが少量出てくる。
運転席においてブレーキを何度も踏む。
このときに古いフルードが排出されるので、リザーバータンク内のブレーキフルードが
無くならないように注意し、少なくなったら注ぎ足す。
6. 排出したブレーキフルードが新品のフルードと同じ色になったら、ブリーダープラグを締め付ける。
7.これらを繰り返しながらブレーキフルードを交換していく
ブレーキフルードの交換そのものは、それほど難しいことではありません。
でも、一歩間違うと、ブレーキフそのものの性能を壊してしまうことにもなりかねないので、以下の点には十分注意をして作業することを忘れないで下さい!
10.ブレーキフルード交換時の注意事項
➢ブレーキフルード交換時にはエンジンを停止する。
万が一ABSが作動した場合エアを噛む危険性がある為。
➢リザーバータンク内は常に満たしておくこと。
これはエアの混入を避ける為。
➢ワンウエイバルブの装着は、流れる方向に注意する。
キャッチタンク何はホースが浸かるくらいの量のブレーキフルードをいれておき、万が一逆流したときのエアが混入するのを防ぐ為。
➢ブレーキフルードを排出しているときに、エアが混入するのが認められたら直ちにエア抜きを行う。
➢ブレーキフルードが自動車のボディに付着したときは、水を大量にかけて洗い落とす。
フルードは自動車のボディに付着すると塗装を著しく侵す性質があります。
水を吸収する吸湿性を逆利用して水で落とすのです。
その後は、ウエスでそっとふき取ればOKです。
まとめ ブレーキフルードがブレーキを作動させることを忘れるな
自動車の装置やパーツはどれが欠けても運転することができません。
その中でも、ブレーキは特に重要な装置です。
自動車は走らなければ、事故を起こしたりする危険はありません。
しかし、一度走り出したら交差点や横断歩道、どこかで必ず止まらなくてはいけません。
自動車を止めようと思っても止まらなかったとき、あなたならどうしますか?
常日頃から、ブレーキの状態やブレーキフルードの劣化状態などを把握し、安全で楽しいドライブができるよう心掛けて下さい。
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