自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
これまで多くのオーナーの自動車と触れ合ってきました。
自動車ディーラーを離れてからも、各方面から依頼があれば車検整備もレース用チューンナップにも参加してきました。
今回は、あらゆる整備やカスタムを施してきた元プロメカニックとして、一線を退いたからこそ見えてきた自動車の危険な状態というものをあなたにお伝えしたいと思います。
今現在、あなたの自動車がこれからご紹介するような状況にないかを確認しながら、今後の自動車との接し方の改善につながれば幸いです。
1.自動車とハードコンディション
日本国内において、過走行として考えられているのが総走行距離13万kmというのが1つの尺度となっています。
これは、通常のスパンで車検整備(12ヶ月・24ヶ月点検)のみをしている自動車の各所消耗パーツの寿命を迎えるであろう予想距離を設定してあるのです。
個体差があるので、必ずこの距離で寿命を迎えるわけではありません。
しかし、通常の車検整備項目には入っていないシリンダーの摩耗や、バルブスプリングのヘタリは確実に進行しています。
他にも機械的パーツ、電子的パーツなどの全てのパーツが劣化することは止めることができません。
また、風雨にさらされた保管では、外装の傷みの進みが早いです。
自動車博物館に展示されている自動車でさえ、外装の劣化は進行していきます。 空気中に含まれる水分・油分・埃・PMなど、塗装膜を侵食していく要因は溢れています。
屋外保管の自動車は、屋内保管に比べて劣化速度が早いのは必然的です。
車内の劣化は、温度の変異の幅によってや使用頻度、動物や子供の乗車の有無、重量物の積載などで進行していきます。
温度変化によってウレタン素材やプラスティック素材は劣化していき、乗降回数が多ければそれだけ車内パーツへのダメージを蓄積していきます。 動物や子供というのは、新陳代謝が激しいため皮脂やフケなどが侵食を促します。
重量物の積載は、自動車の各所に負担をかけてしまうため、あらゆるパーツを傷めつける原因となります。
今挙げたのはほんの一例です。
年間走行距離が激しかったり、スポーツ走行をしたりと、まだまだハードコンディションとなる要因はたくさんあります。
あなたの自動車がどれだけストレスを溜め込んでいるかをまず考えてみましょう。
2.危険の兆候
自動車が危険を告げてくるのは、本当に壊れてしまう直前だと思ってはいませんか。
実は、本当に手の施しようが無くなるだいぶ前から自動車はあなたに危険の兆候を教えてくれています。
エンジン始動時、多くの方は一気にクランキングしてエンジンを回してしまいます。
しかし、本来であればイグニッションスイッチをACCへと、そこからONに移動しクランキングをするというのが正しいエンジンのかけ方です。
この際に、フューエルポンプが正しく作動しているのか確認できたり、バッテリー電圧が充分に足りているかなどを察知することができます。
ただし、最近のボタン式エンジンスタートの場合、この限りではありません。
ブレーキペダルを踏んだ際に、フューエルポンプ音などの確認をするようになります。
教習所で習った通りの乗車をしている方も少ないです。
自動車をぐるりと見回し、この時点で空気圧が足りているのか、前後ライトレンズに傷や割れがないか、外装に見知らぬ破損がないかなど、確認できることは多いです。
発車前には、各電球の不備がないか確認しておかないと、いざ発車した後にウインカーが正常に作動せずに高速点滅を繰り返してしまったり、ブレーキランプ球が切れていて整備不良で警察により罰則をもらってしまうなんて事態になりかねません。
エンジン始動直後は、自動車が危険を教えてくれる最高のタイミングです。
一番エンジンが冷えきっているタイミングというのは、オイルの流動性が悪くエンジンの状態を察知することができます。
正しいタイミングで燃焼サイクルが行われているのか、オイルの劣化状況は、吸気フィルターが綺麗になっているのかなど、暖機運転をすることで知ることができます。
エンジン音・排気の色・振動などに危険の兆候は現れるので、あなた自身がその報せを察知する必要があるのです。
3.あなたにできる応急処置
ここまでに挙げてきたことに対して、あなたはどのような対処をすることができるでしょうか。 常に自宅に消耗部品を備蓄していたり、カウンセリング機器を常設しているユーザーは決して多くありません。
もし自動車に不備があったとして、その日は自転車で移動すれば良いという方ばかりでもないでしょう。
ではどのように応急処置をすればよいのでしょうか。
外装面であれば、とにかく洗車をすることです。 ワックス磨き上げをするまでの時間がなかったとしても、水洗いだけをしたり、最悪は埃を払うだけでも充分です。
とにかく清潔を保つことで、外装全体の劣化を防ぐことにつながります。
エンジンは、オイル交換だけは必ずすることを習慣付けることが大切です。
高温になり熱がこもってしまうエンジンは、オイルが劣化することで金属疲労を解消できなくなります。
しかし、オイル交換するにはそれなりに時間も必要となってしまいますので、いつでも手軽に処置できるのが吸気フィルターの清浄です。
できることなら高圧空気で埃を吹き飛ばしたいですが、細い棒で軽く叩いて埃を払うことでもエンジン内部に汚れを運ばないようにする助けになります。
電球の切れは、気付いた時にできる限り早くホームセンターや自動車パーツ量販店、ガソリンスタンドなどでお求めになってください。
運転しているあなたへの影響よりも、周りを走行している自動車へあなたの存在を確実に知らせるためにです。
意外と多い交通事故の原因に、ライトの不備というものが挙げられるほどですので、あなたの命を守るためにも疎かにしたくないところです。
車内の劣化に対しては、まずシートカバーを被せることで侵食を食い止めたいです。 座布団を敷くことで対処するのも良いですが、できれば固定できるタイプを選びましょう。
シートのウレタンや表面布地へのダメージを防ぐことができます。
プラスティック素材には、劣化を防ぐためにシリコンスプレーを使ったりする方も多いですが、実はこれはやめておいた方が良いです。
埃を吸着してしまい、ウィンドウからの可視光から火災を引き起こしかねません。
オススメは、とにかく埃をしっかりと払うことです。
埃をなくした後に水拭きとしっかりと乾拭きするだけで、プラスティック素材の劣化を遅らせることができます。
つまり、どんなパーツであっても【清潔を保つ】ことが劣化を防ぐことに1番大切だということです。
人体も不潔な状態ですと様々なトラブルを引き起こすのと同じで、機械も清潔であることでトラブルを回避することができます。
4.まとめ メンテナンスを侮らないで
ここまで少し具体例をお話しさせて頂きましたが、全て日常メンテナンスを疎かにしなければ未然に防ぐことができることばかりなのがお分かり頂けると思います。
自動車という一つの機械に対して、あなたがどれだけ真摯に向き合っているのかということが、自動車の寿命にも運転するあなたの命にも深く関係するということを忘れないでください。
決して難しいことではないはずです。
多くの方が、自動車は車検さえ通していれば安全だと勘違いしています。
車検は、どこまでいっても【自動車が走行するための最低限のメンテナンス】でしかありません。
車検制度の弊害ですが、一般ユーザーが自動車の知識を持とうとしなくなりました。
オイル交換はおろか、電球交換さえできないユーザーも少なくありません。
あなたが安全に安心して運転していきたいと望むのであれば、自動車に対して一歩踏み込んだ興味を持ちましょう。
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