自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
自動車を長年運転していているドライバーでも、ATFがどこに使われているのかを知らない人が多くいます。
自動車には、マニュアル車(MT)とオートマチック車(AT)があるのはご存知の通りです。
現在、普通乗用車はほとんどAT仕様になっていますが、一部熱狂的なMT愛好家も存在し、各メーカーがMT自動車の生産は続けています。
大型バスやトラックは今でもMT仕様です。
これは、MTのトルク特性がローギヤードなため、駐車場の出し入れなど微妙な操作が楽だからです。
1.ATFとはどんなもの?
ATFとはオートマチック・トランスミッション・フルードの略で、オートマチックギヤシステムの中に使われているオイルのこと。
日本語では自動変速機油と呼ばれています。
一般的にはATFと呼ばれていますが、俗称は「トルコン・オイル」(オートマ・オイル)。
トルコンとは、Torque Converter(トルク・コンヴァーター)のことで、動力を伝達(変換)する装置のこと。
その原理を簡単に説明すると、オイルを充満させたケースに内部をプロペラでかき回すとオイルも回り始めます。
このオイルの回転力を別のプロペラで受けることによって動力が伝わることになるのです。
この別名を「流体継手」、この動力を伝達する液体のことをFluid(フルード)と呼びます。
この他にも
•ATFオイル
•ミッションオイル
とも呼ばれています。
このトルコン・オイルは、粘度が低くサラサラした柔らかなもので、エンジンオイルとは全く異なる働きをする為にAT専用に開発された製品なのです。
低温でも固まらず、高温でも極端にサラサラになったりせず、「粘度変化」に強いオイル。
ATFはエンジンオイルと区別する為に、一般的には赤色に着色されています。中には緑色あるいは青色に着色されたオイルもあります。
一般的な日本車のエンジンオイルの使用量が2~4Lに対して、ATFは6~10L前後です。
2.ATFの役割
手動でギアを変えるMT(マニュアル・トランスミッション)に対して、自動でギアを変えるAT(オートマチック・ミッション)はとても便利。
そんなAT車のギアチェンジがスムーズに行わえるようにしたり、エンジンの動力をタイヤに伝えたりするのがATFの役割です。
1.動力伝達機能
エンジンの動力を伝達
2.潤滑機能
ギアを摩擦から保護する
3.摩擦特性
変速時の湿式クラッチを適切に滑らせる
4.冷却機能
ATの熱を放出する
5.油圧作動
自動変速をする為
6.トランスミッションの冷却・清掃
このように多様な役割を担っている割には、一般的には余り知られていませんが、とても重要な存在なのです。
3.ATFの成分
ATFには次の成分が含まれています。
★洗浄剤 ★分散剤 ★防錆剤 ★消泡剤 ★高温増粘剤 ★抗酸化化合物 ★界面活性剤 ★耐摩耗性添加剤 ★低温流量改善剤 ★ガスケット保護剤
★石油系染料
ATFは多種多様で、車種によってDEXRON(デキシロン)や MERCON(マーコン)など数多くの異なる規格があります。
デキシロンは米国のゼネラルモータースが承認。
マーコンはフォード社が定めたものです。
不適切なATFを使用すると、トランスミッションの不具合が生じるなど大きな故障に繋がる恐れがあるので要注意。
そのため、カーショップなどで汎用性のATFオイルがありますが、オススメはできません。
ATFの交換には各社の規格に合致した純正品を使用しましょう。
4.ATFの量の確認方法
エンジンオイルは、潤滑サイクルの中で極微量ながらオイルが消耗されてしまい、充填量が減ってしまうことあります。
ATFは基本的に消費されることはありません。
しかし、パッキンやオイルシール、ゴムホースなどが傷んできて漏れてしまうことがあります。
念の為、ATFの量もチェックしておけば安心です。
ATFの量をチェックするときは、ミッションが暖まっている状態で行うのが普通です。
この状態にする為には、インパネの水温計が上がっただけではダメで、ミッションそのものの温度を上げておくことが大事。
メーカーによっては、電動ファンが2度回るまで暖機運転をするよう指示している場合があります。
ATにもレベルゲージが付いて、通常は後輪自動車の場合はエンジンの後方に、前輪自動車の場合はエンジンの側方にあります。ゲージの場所や点検方法については、それ
ぞれの車種の取扱説明書を参照してください。
5.ATFの劣化状態の確認方法
ATFは消費されないといっても、劣化はします。
劣化することでAT車の性能に影響が出る場合があります。
ATFオイルの一般的な確認方法は以下です。
1.暖機運転
エンジンを始動させ、エンジンの回転数が落ち着くまで待つ。
2.エンジンをかけたまま、サイドブレーキまたはハンドブレーキを引き、更に安全の為にフットブレーキを踏む。
3.シフトレバーを「P」の位置から「R」「N」「D」「2」「L」など全てのポジションにゆっくりと移動させる。
4.シフトレバーをゆっくりと「P」の位置に戻し、サイドブレーキのロックを確認した後、ボンネットを開ける。
このとき、エンジンはかけたままにしておく。
5.ATFレベルゲージを抜き、ウエスでオイルを拭きとり、再度ゲージを差し込む。 エンジンやミッションが十分に暖まっているときは、ゲージ上部の「HOT」側を、そうでないときは、ゲージ下部の「COLD」の目盛りを読み取る。
どちらの場合でも、基準のラインより下回っていれば補充が必要です。
6.ATFの色の確認(赤色の場合)
ATFは走行距離を重ねるほど劣化します。
劣化によって、初期の性能が発揮できなくなるので、オイルの量と同時に色の確認もする必要があります。
劣化によって、初期の性能が発揮できなくなるので、オイルの量と同時に色の確認もする必要があります。
透明赤色→黒ずんだ赤(多少の透明感有り)→黒色(透明感無し)
このように色の変化が起こったら劣化した証拠です。
ATF交換の時期が来たといえます。
6.ATFを交換しないとどうなるか?
多種多様な役割を担っているATFは、交換しないとどうなるのでしょうか?
使用年数や走行距離が多くなると、徐々に劣化し、不純物も増えてきます。
劣化したATFを使用していると、ギアを円滑に変速したり、エンジンの動力をタイヤに伝えるといった性能が低くなり、
•発進・加速の性能低下
•ギアチェンジの際の衝撃が大きくなる
•燃費が悪くなる
•ATが故障し走行不能になる
などの不具合が起こることがあります。
7.ATFの正しい交換時期
ATFの交換時期は、自動車の使用年数や走行距離等によって異なり、各メーカーによっても異なります。
参考までに、主要メーカーのATF交換の目安は以下のとおりです。
❏トヨタ
厳しい使用(悪路走行など)の場合:100,000kmごと
❏日産
40,000kmごと
❏ホンダ AT車 標準的使用の場合:初回は80,000kmで2回目以降は60,000kmごと
厳しい使用の場合:60,000kmごと
MT車:80,000kmごと
CVT車:40,000kmごと
❏マツダ
必要とする車種と必要としない車種がある
❏ダイハツ:100,000kmごと
❏スバル:40,000kmごと
8.ATF交換の為に用意すると便利なもの
ATF交換では、便利なツールも存在しています。
近くのカーショップにない場合は、ネットでも手に入れることが可能です。
➢オイルシリンジ
オイル類の抜き取り、入れ替え作業に最適。
ノズルの先端をオイルの中に差し込み、引き手を引くとオイルが油筒内に吸入され、引き手を押し戻すと排出される。
➢ツーウェイ10L AFTエア式オイルチェンジャーポンプ
吸入+抽出用 AFT専用ソケット14組付き
9.ATF交換の前準備
ATF交換の前準備として自動車のジャッキアップが必要です。
自動車のジャッキアップ作業には少々危険を伴うことがあるので、下記のことに注意しながら慎重に行いましょう
•平坦な場所で行う(傾斜のある場所で作業すると、ジャッキが外れることがあります)
•ジャッキアップ作業中であることを周知させる(三角の反射板などを置く)
•エンジンは停止する。
•自動車の下に潜る場合は自動車の下にタイヤを入れる(これは絶対に忘れないでください!)
10.ATFの交換方法と手順
それでは、いよいよATFの交換作業の開始です。
1.オイルパンの下に【廃油受け】を置きます。
万が一オイルが廃油ポイパックからこぼれた場合に備えて、下に新聞紙を敷いておくと良いでしょう。
2.エンジンオイル交換と同じ要領でドレンボルトを外してATFを抜き出す。
ドレンボルトが外れると同時にオイルが勢いよく出てきます。
3.ボルトに付着したスラッジ(粘性の高い汚れ)をきれいにする。
4.ATFが抜けたら、ドレンを締め付けつける。
5.リフトダウンする。
6.エンジンを暖機する。
エンジンを暖機した後、エンジンを停止し、60~90秒待つ。
7.レベルゲージにホースを差し込み新しいATFを抜けた分だけ注入する。
8.注入後、ブレーキを踏み、シフトポジションの切り替えをする。
ゆっくりとP→N→D→2→Lと切り替え、順序を逆にして再度切り替える。
9.不具合がないかどうか走行テストを行う。
これで、ATFの交換は完了ですが、上記の例は、ATFの下抜きの例です。
自動車をジャッキアップせずに、上から抜き取る【上抜き】の方法もご紹介します。
ATFオイルゲージを抜く。
1.レベルゲージにチューブを入れて注射器を付け、オイルを抜く。
2.このとき少々のゴミも厳禁で、万が一ゴミが付着するとミッションが壊れる恐れがあります。
3.注射器に満杯になったら、オイルをきれいに洗ったペットボトルに入れる。
これは、抜いたオイルの量を分かり易くする為です。
4.抜いた分だけ新しいオイルを注入する。
このとき、ジャンプポンプなどを使用する。
5.エンジンをかけて30秒程アイドリングする。
6.再度チューブを入れて注射器を付けてオイルを抜く。
注射器で抜き取り量には制限があるので、これを何回か繰り返します。
7.注入後、ブレーキを踏み、シフトポジションの切り替えをする。
ゆっくりとP→N→D→2→Lと切り替え、順序を逆にして再度切り替えます。
8.不具合がないかどうか走行テストを行う。
❖上抜き方法の利点は、ジャッキアップの必要がなく、漏れたオイルが地面にこぼれたりしないこと。
❖上抜き方法の欠点は、一度でオイルを全部抜き取ることができない為、何度も同じことを繰り返さなければならないこと。
どちらの方法でATFの交換をするのかは、あなた次第です。
もし、最初に一人だけで交換するのが不安な場合には、まずはプロの仕事を観察させてもらいましょう。
オートバックスやイエローハットなどのピット作業であれば、待機室にて見ることができます。
まとめ ATFの本質を知ろう
当然ながらオートマチック車のミッションオイルはATFです。
そして、パワーステアリングオイルもATFを使用しています。
流動性が高く、それでいて粘度もエンジンオイル以上の硬さを持つATFの本質は作動油ということになります。
何かを動かすための油脂。
同じ特性を持っているのがブレーキフルードです。
以前、私の乗る750ccバイクのブレーキが不調を訴えたことがあります。
原因はドラムブレーキの作動不良。
通常のブレーキフルードには、潤滑性能が求められていないため既に錆が発生している旧車には対応しきれなかったようです。
潤滑性能を持つ作動油。
目の前にあったATFを入れてしまったのです。
もちろん全量交換しました。
ドラムブレーキもオーバーホールした方が間違い無いのですが、試しにそのままATFでブレーキを作動させてみると、ブレーキペダルを20数回踏んだところで正常に作動し始めたのです。
ATFは、通常ミッションケースの中でクラッチ板を浸しているため、ゴムパーツの侵食も気にしないでいけました。
自分の手でATFの交換をする場合、絶対量が必要になります。
ペール缶で2〜3本ストックすることも良くありますので、油圧作動のアフターパーツを追加した時は、私はATFで代用しています。
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