自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
通常に自動車に乗っているだけであれば、シートの交換なんて考えもしないところです。
しかし、それはあくまでも一般道をメインに短距離でしか走行しないからです。
極限状態での走行や、一度の移動距離が数百kmにも及ぶような場合、標準装備のシートでは疲れが非常に溜まります。
そんな時、あなたの身体に合ったシートが備わっていれば、その疲れは格段に解消されます。
今回はそのメカニズムについて知って頂き、あなたの自動車ライフがより豊かなものになるお手伝いをしたいと思います。
1.シートポジションとは
シートポジションを決めるのは、前後へのシート位置のセットとリクライニング機構がほとんどです。
さらには、座面前部の高さセットと座面後部の沈み込みのセットができるものもあります。
運転席は意外と狭いです。
その狭さが原因で【エコノミー症候群】を発症してしまうほどです。
運転中はほぼ常に同じ姿勢を保つことになります。
どんなシートを使用してもこれは変わりません。
しかし、ハンドルとの距離、各ペダルとの距離、身体を支える為のホールドなどが適正化できていれば、体内を巡る血流の妨げを防ぐことができるのです。
2.シートの種類
まずは純正シートです。 リクライニング機構とシートスライド機構が標準装備とされています。
快適性を求められているため、ウレタン素材が厚くゆったりとした座り心地があります。
その反面、沈み込みが大きく太もも裏が圧迫され血流が悪くなることから、エコノミー症候群発症率の高いシートとなっています。
助手席や後部座席では、身体を動かすことで防ぐことができますが、運転席ではその自由度が非常に少ないため適度な休憩をしながら運転すべきでしょう。
次にセミバケットシートと呼ばれる社外シートです。
純正シートと同じくリクライニング機構を持ったレーシングシートと理解して頂ければ結構です。
純正シートと違う点は、身体をホールドするために背中や腰回りを包み込む形状をしていることと、座面ウレタン素材が半分程度まで薄く設定されている点です。
座面を薄くすることで、純正シートではやや高すぎる座り位置が適正化することができます。
この適正化は、エコノミー症候群予防に大きく役立つものとなり、あなたの運転をより快適なものへと導いてくれるのです。
最後にフルバケットシートと呼ばれる完全な社外レーシングシートです。
このシートは、シート背面部を保護しないと車検適応外のパーツとなります。
完全なレーシングシートというだけあって、身体をホールドする能力は上に挙げた2種類よりも優れています。
ウレタン素材も最低限まで削り落としてあることから、同じ姿勢での運転にも苦痛を感じることはありません。
しかし、リクライニング機構がないことから、手軽なシートではないという欠点があります。 長距離運転をし、少し休みたいと感じた時にリラックスできるシートではないのです。
ファッション性はあるものの、汎用性の低さから一般的な使用にはオススメできません。
社外シートを取り付けるためには【シートレール】と呼ばれる固定器具が必要となります。
各パーツメーカーがそれぞれに対応したものを出していて、純正のシートスライド機構よりも細かなポジション設定を可能にしています。
3.シートポジションによる運転性の変化
上の項でも軽く触れましたが、シートポジションを適正化することでエコノミー症候群を防ぐことができます。
そして、座面の高さを調整することで各ペダルと腰の位置関係をストレスが掛からないようにすることができるのです。
よく運転していて背中や腰、おしりが痛くなることはありませんか?
これは、シートと身体との接地面に隙間が生まれることから発生する痛みになります。
純正シートは、ウレタン素材の厚みでこの隙間を埋めようと設計されていますが、接地面に熱さを感じてくると人は無意識に冷たいところへと身体を動かしてしまうので、自然と隙間を作ってしまうのです。
そこで役に立つのが社外シートです。 ウレタン素材を薄くしてあるため、身体からの熱の籠もりが少なく身体の位置を動かさなくても運転していられます。
そして、何より身体をホールドされているため無駄な身動きを抑制することができます。
座面が低くなることで、各ペダルへのアプローチも変わります。
通常斜め下へ踏み降ろすような感じにペダル操作をするはずですが、その時の足は不自然に足首を引き上げている状態になるはずです。
この不自然さがエコノミー症候群を引き起こす原因にもなります。 座面を下げることで、斜めだったペダルへのアプローチは直線的なアプローチへと変化します。
極端な例えですと、長座した形に身体を落ち着かせることができるということです。
椅子に座って足を斜めに伸ばすと、必ず太ももは座面に圧迫されます。
これに比べ、長座している時は足に掛かるストレスというのは確実に無いものとなるのです。
そして、背中や腰をしっかりとホールドしてくれることで、横揺れに対しても身体の位置が変わらないで運転することができるのです。 これは地震対策の家具の固定具と同じ効果を発揮します。 激しい揺れによって倒れてしまう家具も、しっかりと固定されることによって平然とその場に佇むことができ、中に入っているものも固定されていれば壊れることはありません。
あなたはこの家具の中身です。
運転中の身体の不用意なズレというのは、意外とストレスを蓄積するものなのです。
レーサーが何一つ事故を起こさないでも疲労骨折するほどに、揺れというものは確実にあなたの身体を破壊していきます。
このように、シートポジションというのは甘く観ることができない実用的なセッティングの1つなのです。
4.まとめ シートポジションはあなたの快適性に深く影響する
ここまでざっとご説明してきましたが、何もシートを交換すべきだというわけではありません。
最近の純正シートは、座面の高さを調整できるランクも用意されています。
あなたがもし運転していると疲れると感じている場合、一度シートの位置を適切に調整し直してみてはいかがでしょうか。
しっかりと深く腰掛け、おしりが前方向にズレない位置までシートを前に出して下さい。 背もたれは立ちすぎていないか、寝すぎてはいないか。
その状態でブレーキペダルを踏み込むと、軽く膝に余裕がある場所が適正位置です。
今一度シートポジションを見直して、あなたの快適な自動車ライフをお過ごしください。
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