自動車業界の経験者が教える、他では聞けない「クルマの基礎知識」
最近の新型車は、ウインカーやテールランプにとどまらず、ヘッドライトにLEDを採用する車が増えてきました。 しかし、LEDヘッドライトはどこにメリットがあるのでしょうか。
省電力イメージと新しい技術のイメージで、なんとなく良いものだろうというぐらいの感覚しか無い方は多いのではないでしょうか。
■LEDヘッドライトのメリット
LEDヘッドライトのメリットとデメリットをまず明確にしましょう。 比較対象として、最近主流のディスチャージヘッドランプと比べてみます。
ディスチャージヘッドライトとは、蛍光灯やネオン管と同じような原理で、ガスを封入したバルブに電気を流すことによって発光する物で、ディスチャージヘッドランプの前の世代の電球を使ったハロゲンヘッドライトよりも明るく、効率が良いと言われており、最近多くの車に採用されているヘッドライトです。
・点灯直後から最大光量で点灯 ディスチャージヘッドランプはスイッチをONにしてからバーナーの光が光り始め、そしてそれが安定するまでにしばらく時間がかかります。
それに対して、LEDヘッドライトはライトを点灯した瞬間から最大の光量を発揮することが可能です。
・省電力 LEDヘッドライトはディスチャージヘッドランプと比べても省電力で済みます。 ディスチャージヘッドランプのバルブが片側1灯55Wなのに対して、25Wから30W程度と約半分の消費電力となります。
新しい車でバッテリーの消費を気にする人は少なそうですが、省エネであれば多少は燃費にも良いはずです
・長寿命 HIDヘッドライトの寿命は2,000時間と言われていますが、LEDヘッドライトの寿命は10,000時間ともいわれます。
約15年の寿命で、もしかすると廃車にするまで交換は必要ないかもしれません。
■LEDヘッドライトのデメリット
では、LEDヘッドライトのデメリットは何でしょう。
・光線に熱が少なく、雪が溶けない LEDヘッドライトが発する光には、特性として赤外線がほとんど含まれません。
それに対してディスチャージヘッドランプやそれ以前のハロゲンヘッドランプの光には赤外線が含まれます。
赤外線が含まれることによって、ヘッドライトのハウジングが熱を持ち、ヘッドライトのガラス面についた雪を溶かしてくれるのですが、LEDヘッドライトの光は赤外線を含まないため、熱を持たず雪などを溶かすことができません。
・暗く感じる事がある LEDヘッドライトの光は、赤外線(赤い色)が少ないのは説明したとおりです。
青い光の成分が多いLEDヘッドライトは、色味のせいで、暗く感じられることがあります。
・熱に弱い LEDヘッドライトは、その光源に熱を持ちませんが、LEDチップ自体は発光する際にかなり発熱します。 しかも、LEDチップは高熱になるとチップが故障して点灯しなくなります。 そのため、チップを十分に冷却する必要があるのです。
フィラメントバルブの交換型の後付けのLEDバルブが、冷却ファンや大型のヒートシンクを持っているのはそのためです。
・一旦壊れたらユニットごと交換 LEDヘッドライトは、ヘッドライトユニットに一体化していることが多いようです。 そのため、ヘッドライトが故障するとバルブの交換はできず、ヘッドライトユニットごとの交換になってしまいます。
そうなると、交換にかかる費用はかなり高額になることでしょう。
■LEDとフィラメントの光源の特徴とは
LEDヘッドライトの光源はLEDチップから発せられます。 基板に実装されているチップが光るので、180度程度の光の広がりになり、これを面光源といいます。
それに対して、これまでのフィラメントバルブやHIDバルブはバルブ全体が発光してほぼ360度を照らし、これを点光源と呼びます。
フィラメントバルブの交換型のLEDバルブでは、フィラメントの点光源が発光する状態を再現するために、複数のチップをさまざまな方向に取り付けます。
このチップの配置によって、ヘッドライトの配光特性などが変わってしまうので、交換型のLEDバルブを装着する場合には、どのバルブを選ぶかについては慎重に検討する必要があります。
■面発光のLEDの特性を生かしたヘッドライトとは
前段で説明したとおり、LEDチップはフィラメントバルブやHIDとは全く違う光源と言っても良い特性を持っています。
そういう意味では、LEDチップでフィラメントバルブやHIDの真似をしても意味がなく、LEDの特性を生かすべきなのです。
LEDチップの特性を生かしたヘッドライトシステムとはどのようなものでしょうか。
その代表的な物が、アウディの「マトリクスヘッドライト」です。
マトリクスヘッドライトの中には、LEDチップが沢山並んでおり、各チップが路面のどこを照らすか細かく決められています。
そして、対向車や、歩行者が前方にいた場合、対向車や歩行者の部分だけ消灯して、配光を細かく調整することが可能なのです。
このヘッドライトであれば、ハイビームにして走行していても対向車に配慮して部分的に消灯してくれるので、いちいちハイとローを切り替える必要がなくなります。
この、LEDによって配光を調整する機能を持つLEDヘッドライトは、今のところアウディの「マトリクスヘッドライト」と国産メーカーではマツダの、「アダプティブ・LED・ヘッドライト」だけです。
■LEDヘッドライトで今までに無いデザインが可能
LEDヘッドライトを実現するためには、現在の所、複数のLEDチップを設置してその光をまとめてヘッドライトに必要な光量を稼ぐことが可能になります。
その制限ともいえる問題を逆にデザインに生かしているメーカーもあります。 アウディやNSXは、ヘッドライトの中に無数の仕切られた枠がある、無機質なヘッドライトデザインを実現しています。 レクサスではヘッドライトユニットの中に3つのレンズが見えるデザインを採用しています。
その他にもLEDチップとリフレクターによってヘッドライトに宝石がちりばめられたようなデザインも可能になるでしょう。
ディスチャージヘッドランプやハロゲンヘッドランプは、点光源という特性によって、2灯や4灯という形に縛られていました。
しかし、LEDヘッドライトはこれまでのデザインを脱却し、まったく新しいフロントマスクを作れるようになった点が画期的なのです。
■LEDヘッドライトは結局のところどうなの?
LEDヘッドライトは新しい技術であり、全てのメーカーがその特性を生かした製品を作っているかというとそうではないようです。
LEDの特性を生かしたデザインであったり、機能を持ったヘッドライトユニットを採用するのであれば、LEDヘッドライトであることを評価することができます。
しかし、既存のヘッドライトをLED入りのバルブに置き換えるタイプのLED化については、メリットを感じられません。
それは、LEDは光源がフィラメントバルブやHIDバルブとまったく異なるものだからです。
LEDヘッドライトは、LEDの特性を生かしたヘッドライトユニットで使用されるべきなのです。
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